第五十八回 順調

 宋江そうこうのいる鄆城県うんじょうけん詳細しょうさいが分かった。県知事けんちじにあたる時文彬じぶんひんが、もと部下ぶかであった宋江を減刑げんけいさせ江州こうしゅうへの流罪るざいを働きかけたようだ。


 この人物、職務しょくむに忠実で民にも優しさをもっていた。宋江は信頼していた部下だったのでその罪をもみ消そうとして失敗していた過去がある。


 そして護送役ごそうやくには宋江をした雷横らいおう朱仝しゅどうという男が名乗りをあげていた。


 ※雷横

 あだ名は挿翅虎そうしこ(羽の生えた虎)で、身が軽く二~三丈の川を跳び越えることができたことに由来ゆらいする。若い頃職を転々てんてんとし、のちに鄆城県の都頭ととうとなった。身長は七尺五寸、赤銅色せきどうしょくの顔に左右にね上がったひげをたくわえている。


 ※朱仝

 あだ名は美髯公びぜんこうで、その立派りっぱなあごひげをたたえたことに由来する。身長八尺五寸。あごひげ一尺五寸であつく、金や女に無欲むよく


 呉用ごようは言う。


襲撃しゅうげきは間違いなく悪手あくしゅになっておりましたな」


 晁蓋ちょうがいうなずく。


「全く。首領しゅりょう見通みとうしには恐れ入るばかりだ。だがこの面子めんつならさいまねくのは簡単かんたんだ」


 彼がそう言うのもこの雷横という男と晁蓋は面識めんしきがあったからだ。劉唐が生辰網せいしんこうの話を晁蓋に持ち込む為に訪ねる直前、休んでいた所を不審者ふしんしゃに思われ巡回じゅんかいしていた雷横の一隊いったいさわぎを起こした。不覚ふかくにもらわれてしまった劉唐は自分の事を晁蓋をたずねてきた親戚しんせきだとうそをつく。


 事の真実しんじつたずねられた晁蓋は、初めて会う劉唐に話を合わせ、晁蓋を良く思っていた雷横はならばと劉唐の身柄みがら解放かいほうした。


「そう言えば。それで怒りがおさまらない劉唐が、私の家の前で雷横殿に追い付き一騎打いっきうちをしておったのでしたな」


 どうやら呉用も劉唐に色々世話を焼かされている事を思い出したのか、苦笑にがわらいするしかなかった。


「あやつも清風寨せいふうさい一件いっけんで成長したものと信じたいがな。まぁ今回宋江殿を迎えに出るのは私と花栄かえい殿どので良いだろう」

「それがよろしいでしょう」


 こうして晁蓋達は準備にうつる。



 一方……


「ばーば(爸爸)」※お父さん

「……ばー」

「おお!? 今私を父と呼んでくれたか?」

「お呼びになられましたね! 桃香とうか様、瓢姫ひょうき様、わたくしは誰か分かりますか?」

「あー……りんまーま(林媽媽)」※お母さん

「……りーまー……」

「!? お、王倫様! わたくしをお母さんと!」


 王倫と林冲りんちゅうの妻(林氏りんし)は梁山泊りょうざんぱく姫君ひめぎみ達に感激かんげきさせられていた。



 別の日、頭目とうもくの一人である朱貴しゅきは弟の朱富しゅふうを自分の酒場に呼び寄せる。


 ※朱富

 慇懃柔和いんぎんにゅうわ態度たいどだが腹の中では何を考えているかわからない物騒ぶっそうな人物とひょうされ、笑面虎しょうめんことあだ名されるが義理堅ぎりがたい面も持つ。故郷こきょう居酒屋いざかやをやっている。


「すまないな朱富、突然連絡して呼び出したりして」

「確かに驚いたけどそれは大丈夫だよ兄さん。それよりも此処ここが兄さんの店だって? 大した繁盛はんじょうぶりじゃないか。むしろそっちの方に驚いたよ」


 朱富は店内をキョロキョロと見渡みわたす。


実家じっかの酒屋を飛び出して僕が家業かぎょうをついだけど、やっぱり兄さんにも酒屋の血が流れていたのかな」

「さぁどうだろうな。ささ、自慢じまんの酒と料理に手をつけてくれ。そして感想を聞かせてほしい」


 朱貴と朱富は久しぶりの再会さいかいを喜んだ。この後酒と料理の味に驚く朱富。朱貴は現在いまの自分の立場たちばを話して聞かせ、この梁山泊を豊かにするためある計画を打ち明けるのだった。

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