第五十九回 王倫、宋江らと知り合う

 つい晁蓋ちょうがい達が宋江そうこう達を梁山泊りょうざんぱくへと連れてきた。


 せしてかこんだ時こそ警戒けいかいされたが、晁蓋と花栄かえいから説明を受けた一行いっこうはそう言う事ならと了承りょうしょう招待しょうたいを受けたのだ。


 何も知らない一部の者も初めは不安だったようだが、本当に害意がいいがないと分かると安心して歓待かんたいを楽しむようになった。


 宋江は主賓しゅひんとして扱われ王倫おうりんとなりに席が用意され、対面たいめんのすぐ近くに宋江の義兄弟である晁蓋と花栄。次に雷横らいおう朱仝しゅどう、宋江にゆかりのある者達が座り盛り上がる。朱貴しゅきの弟、朱富しゅふうも兄のはからいで参加していた。


 王倫は宋江をその物腰ものごしから聞いていた通りの人物だと印象いんしょういだいた。宋江もまた山寨さんさい首領しゅりょうでありながら、晁蓋や花栄を立て、目立めだたぬ様に場の空気を維持いじしようとしているその姿に好人物こうじんぶつだという印象を持つ。


 この二人の共通点きょうつうてんは自身に飛び抜けた能力などないと思っている部分と、その行動で多くの者をけていた所にある。


 そして王倫や呉用ごようが予想した通り、宋江は父親の要望ようぼうこたえ、江州こうしゅうで罪をつぐなうつもりだといた。当初とうしょ晁蓋達が宋江を強奪ごうだつする予定を立て、それに孔明こうめい孔亮こうりょうが反対した話を聞かされ宋江はおどろく。


ちょう義兄あにきも花栄も無茶むちゃをしようとする。もしそうなれば私はほかの者に顔向かおむけ出来なくなっておりましたぞ。ですが……孔明に孔亮が」


 宋江は二人のやしき世話せわになっていた時、礼として棒術ぼうじゅつの手ほどきをしていた。そのため二人の性格上せいかくじょう、言ってはなんだが「理知的りちてき」な行動こうどう選択せんたくした事が意外いがいに思えたわけである。それにくわえて孔明が


「宋江殿、男子だんし三日みっかわざれば刮目かつもくしてみよ(人は三日も会わなければどれだけ成長するか分からない)って事です」


 と返したものだから宋江もしたいてしまった。まぁこれは王倫に聞かされた話の受け売りではあったが。


 宋江を含め雷横や朱仝、護送ごそうの兵達も梁山泊のもてなしを心行くまで楽しんだ。



 その夜、王倫の寝所しんじょを二人の男が訪れる。朱貴と公孫勝こうそんしょうだ。朱貴は朱富をともない王倫に紹介し、梁山泊を豊かにする為の計画を説明する。


「なるほど。隊商たいしょうを組ませ近隣きんりん取引とりひきを行おうと言うのか」

「はい。弟は故郷こきょう居酒屋いざかやをしていますので相談してみたところ良い案だと。それで首領に」


 実は王倫も朱貴と同じ構想こうそうを持っていた。しかし不安材料ふあんざいりょうもあった為、実行じっこううつせない部分があったのだ。


「確かにここの酒は商品としてつ。食料しょくりょうで言えば干物ひものなども余裕よゆうがあるのでこれも出せるだろう……しかし」


 そこへ公孫勝が訪ねてきた。


「公孫勝、お呼びと聞き参上さんじょういたしました。と、先客せんきゃくがおりましたか」

「これは公孫勝殿」


 朱貴の来訪前らいほうまえに王倫は公孫勝を呼んでいたのだ。朱貴は彼の事を朱富に説明して弟を紹介した。公孫勝は王倫に質問する。


宋江暗殺そうこうあんさつけんはまたあと出直でなおした方がよろしいですかな?」

「「えええ!?」」


 朱貴兄弟が驚く。


馬鹿ばか冗談じょうだんを言うな。もし関係者に聞かれたら気を悪くされるだろう」


 王倫はそれを軽くかわすと公孫勝をたしなめ、これから宋江が流される先でかかわる事になる官吏かんり調査ちょうさと、可能ならばこちらにむか宋江に良くしてもらうようにはたらきかける仕事を頼んだ。


(なるほどこの気配きくばり……これが兄貴が自慢じまんしていた王倫様か。確かに只者ただものではない。働きがいはあると見た)


 朱富は商人の顔をのぞかせる。


「首領の頼みです。動いてみましょう。それで朱貴殿達とは何の話を?」


 王倫は先程さきほどの件を聞かせ自分も乗り気だと語った。


「だが商品の出所でどころ素直すなおに『梁山泊』としたら問題が起きるのではないかとな」


 王倫としてはここの産物さんぶつを『名品めいひん特産品とくさんひん』として定着ていちゃくさせたい。しかし梁山泊はぞくとして認識にんしきされている。王倫にはそのほう都合つごうが良い訳だが商品を定着ていちゃくさせてあつかうとなるとその認識がうすれてしまう。そうなると『税収ぜいしゅう』を見込みこもうと官軍のちょっかいが開始かいしされかねない。


「かと言って商品の特産地とくさんちいつわればそれはここの名品ではなくなる。馬を売り買いするのとは勝手かってが違うだろう」


 この矛盾むじゅんに王倫はなやんでいたのだという。

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