第百二十二回 情報の形
「
次に室内に目を向ける。
「しかし……庭といい室内といい手入れはともかく全体的に質素な感じが。あやつらしいと言えばそれまでだが、もっとよい
ふとその視線が部屋の隅に目立たぬように置かれている木箱で止まった。上には布が掛けてある。応接室のその地味な存在。徽宗は好奇心にかられた。近寄って布をとり箱の蓋を開けて覗き込む。
「こ、これは一体……!?」
一方梁山泊。
「ふむ。内容に問題はないと言える。これなら首領や姫様達の魅力が再確認できよう」
裴宣の前には二人の男。一人は
文春は新潮から聞いた村での出来事と自身の体験から「情報紙」なるものを着想。
各頭目達が梁山泊に集まった経緯や村で起きた出来事、村特有の施設や文化など題材になりそうなものには事欠かなかったが、最初はやはり王倫と
王倫の政策と活躍。桃香の献身ぶりと水車発案に至る優しさ。瓢姫の
文春と新潮は情報については
そして一一〇六年、春。梁山泊にてその記念すべき第一号が配布された。
王倫の部屋でそれを読んだ三人。記事にされた当人達(王倫、桃香、瓢姫)は無言だった。三人とも顔が赤い。
「……恥ずかしい」
「村を歩きにくいよぅ」
「は、ははは。だが好評とあっては口を挟む訳にもいくまい。しばらくはからかわれるのを覚悟しておかねばな」
「「うー……」」
外からは
「どれ、外で顔の熱を冷ましてくるか。二人にはついでに菓子でももらって来てやろう」
「……お菓子」
「ありがとう
王倫は外へ出ると鶯の声が聞こえた方へと進む。
「……王倫様」
突然聞こえた声に王倫は立ち止まり独り言のように答える。
「
時遷の姿は見えず声のみ返ってくるが、これは最初から二人で示し合わされていた行動。あの鶯の声は時遷が王倫を呼び出すための鳴き真似だったのだ。
「はい。あの者は
「そうか」
「
「うむ。となると
「は。向かった先はおそらく
王倫と時遷が話しているのは青州軍との戦いで捕虜にした
「実は私は以前遼国の者と話した事があります。あの者にはその時話した相手と同じように
この進言を受けて王倫は洞仙に青州側と対立する気はなく助けを
「北京を経由したと言ったな」
「はい。人目を忍びそこの文官と密会しておりました」
青州に戻らず北京で人と会い、そして国境を越えて消える。これの意味するところが分からない現在の王倫ではない。が、それと同時に国の内政や外交の方針に口を出せる立場でもないのも理解している。
(国同士の化かしあいとなれば
とりあえず時遷を
「もし村で何か気になる情報を仕入れたなら教えてくれ。それと近々また仕事を頼む事になるかもしれぬ」
時遷の返事を確認し周辺から彼の気配が消えた。王倫の表情が梁山泊の日常のものへと戻る。
「いかんいかん。二人の菓子を持ってきてやらねば」
時遷は王家村で休息をとるため旅人を装う。彼は王倫直属の密偵。頭目達どころか義弟の
桃香は
王倫から桃香の出自を聞かされた時は半信半疑だったが、その才能においては高く評価したため、
そしてここでは寝転びつつも情報紙を縦にしたり逆さにしたりしながら
「梁山泊屈指の色男。あの人気女性と深夜に森で密会か。……これはやはり俺と
「森で密会した覚えはないが……これは皆にからかわれてしまうかもしれんなぁ」
彼はにやにやしながら新潮の記事の部分を何度も読み返した。
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