第三十八回 梁山泊攻防戦

 到着とうちゃくした索超さくちょう達は漁村ぎょそんの作業場らしき場所を見つけてそこが確実に無人むじんなのを確認すると、みずうみを前にしてその作業場から後方こうほうのやや離れたひらけた場所に本陣ほんじんを構え、兵達には防御ぼうぎょ主体しゅたい陣形じんけいである方円ほうえんの陣を組ませた。


 ※方円の陣

 大将を中心として円をえがくように兵で囲む陣形。ぜん方位ほういからの敵の奇襲きしゅう対処たいしょできる防御的な陣形。移動にはてきしておらずむかつ形となる。人数が拡散かくさんするため、局所的きょくしょてきな攻撃に長時間対応するにもてきしておらず、攻撃を受けた場合には直ぐに別の陣形に移して戦闘する必要がある。こちらから攻撃する場合にはもちいない。



 これは索超が消極的しょうきょくてきになっているからではなく、そうしなければいけない理由があったからだ。


 彼らの軍は騎兵五百、歩兵二千という構成であったがすぐに攻勢に出られないのはこの眼前がんぜんに大きく広がる湖のためである。


 梁山泊りょうざんぱくは周囲を湖に囲まれた山寨さんさいなので、湖寨こさいと言っても構わないだろうが平地へいちめる割合わりあいは少ない。また街道も少し外れれば森があったりがけがあったりと見通しも良くない上、湖もあししげり入り組んでいる。まさに自然の要害ようがいであった。


 そして先程さきほどべたが、湖に囲まれた場所へ渡る為には舟がいる。多少は荷台にだい持参じさんしてきている分があるとはいえ軍勢全てが一気に渡る数などある訳がなく、近くの村々むらむらからこれを徴発ちょうはつする必要があったのだ。


 さいわいいこの場所がひらけていたのと、岸に小舟が放置ほうちされていた為この場所に陣を構えた。つまり条件がととのっていたのである。


「やはり賊共ぞくどもはこちらに気付いていなかったのでは? そこの場所も人があわただしくこの場を離れたのでしょう。あみ干物ひものが放置されたままになってたりもしておりました」


 周謹しゅうきんから報告を受けた索超は指示しじを出す。


「そうか。それが事実ならこちらに運が向いているかもしれないな。近くの村々から舟を徴発し、向こうとこちらを往復おうふくさせ兵を一気に渡らせてしまおう」



 その索超達の動きを葦の影から息をいそめて見つめる集団がいる。梁山泊の先鋒せんぽうとなった劉唐りゅうとうだ。


「あいつらまんまとえさに食らいついたようだ。よーし、頃合いを見て仕掛しかけるぞ」



 それからあまり間をおかずに劉唐達梁山泊の先陣せんじんが小舟で湖から現れた。


「梁山泊からの攻撃です! 音もなく周囲から現れました!」

「やはりこちらに気付いていたか。……だが数は多くない。そのまま上陸させて周囲を囲んでつのだ! 周謹は先陣を指揮しろ! その後は奴らの舟を奪って逆襲ぎゃくしゅうをかけるぞ」

「はっ!」


 周謹が前線ぜんせんに移動する。劉唐の兵は多く見積もっても三百程だ。直ぐに蹴散けちらして舟を奪えると索超は思った。 だが三百の梁山泊軍は数の差にひるまず前線と激突げきとつ。そのまま混戦こんせんとなり劉唐と周謹が出くわし一騎打ちが始まった。


 馬に乗った周謹と徒歩とほながら槍で戦う劉唐。


「ほう。周謹と互角ごかくにやりあうか」


 索超は本陣からその様子を見ていたが


「報告! 敵の後方左右から援軍えんぐん!」


 物見ものみの報告でそちらに目を向けると銅鑼どらの音と共に湖からは舟、陸からは歩兵の一団がこちらに向かって来るのが分かった。


第二波だいにはか。……こちらの後方の兵を本陣の守りに回し左右の兵を前線に合流させよ」


 索超は指示を飛ばす。


「敵ははたちょう文字もじ。おそらく晁蓋と思われます!」

「何だと!? 生辰網せいしんこう強奪ごうだつ首謀者しゅぼうしゃではないか!」


 驚く索超。追ってきた大物おおものが最前線にこんなにも早く姿を現すとは考えていなかったからだ。


 その晁蓋は劉唐と合流し周謹が二人を相手に苦戦くせんしている。索超は迷わず得物えものつかみ馬に乗った。


「奴を捕らえれば勝ちも同然だ。俺も出るぞ! 敵の兵は千ほど。もう出尽でつくしたも同然どうぜんだろう。本陣の守備兵以外で殲滅せんめつさせるぞ」


 索超が前線に向けて走り出す。


「晁蓋! 貴様は俺が生け捕りにしてやる!」


 だが梁山泊軍は索超が動いたのを見るや太鼓たいこを鳴らして撤退てったいを始めた。周謹は晁蓋と劉唐を相手に疲労ひろう蓄積ちくせきし、逃げた二人を追えなかったようだ。


「周謹怪我はないか?」

「大丈夫です。中々なかなかやる相手でしたが追うことが出来ず申し訳ありません」

「気にするな。奴らは致命的ちめいてき失態しったいをおかしている。後は俺に任せて少し休んでいろ」


 梁山泊軍はあわてて退却たいきゃくしているのか多数の舟を使用せずうち捨てているのだ。索超はこれらの舟を使って追撃ついげきしようと考えた。土地勘とちかんのない場所なので空が明るい今のうちに勝負をつけてしまいたいという思いが彼のその決断けつだん後押あとおしをする。


「よし乗れる者は舟に乗り込め! 晁蓋を捕えてそのまま梁山泊を攻め落としてくれる!」


 索超や騎兵の者は馬を降りて舟に乗り、晁蓋達を捕えんと次々つぎつぎに湖へとぎ出した。

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