第十一回 発展する梁山泊

 副頭目ふくとうもく達は一気いっきいそがしくなった。


 酒場で客を待ち、それとなく情報収集をしたり金目かねめのものを持っていそうな客にはしびれ薬をり金品を強奪ごうだつするのがおも日課にっかだったのだが、以前いぜんとは明らかに状況じょうきょうが違う。


 王倫おうりんの言った選別せんべつとは。


 抜本的ばっぽんてきには梁山泊りょうざんぱくの土地の区画整理くかくせいりと開発である。そこで考え出されたのが手下の有効活用ゆうこうかつよう。七百程いる手下達も産まれた瞬間から山賊だった訳ではない。厳しいぜい悪徳官僚あくとくかんりょう圧力あつりょくなどで生活に困った者達が集まって現在の梁山泊が形成けいせいされている。


 なので農業のうぎょう漁業ぎょぎょう林業りんぎょう建設業けんせつぎょうなど関係していた経験をかして職人集団をつくり、自給自足じきゅうじそく可能かのうな土地にみがきをかけようとしたのだ。


 精通せいつうしている者をちょう任命にんめいして集団を小分けにしきそわせ、新しい技術の確立かくりつ功績こうせきをあげた所には褒美ほうびを出してたたえた。


 漁業に関しては近隣きんりんの村の漁獲量ぎょかくりょうにも配慮はいりょさせ、梁山泊が力を背景はいけい独占どくせんする事がないようにし、あわせて独自どくじ養殖ようしょくなどの研究けんきゅう開始かいし


 また、技術や知識のない者でも武芸ぶげい鍛練たんれん山寨さんさい警備けいび、他の集団の支援しえんや情報収集・伝達でんたつ方法の洗練せんれんなど、脱落者だつらくしゃが出ないようにも心をくだいた。これらにより梁山泊は必然的ひつぜんてき統制とうせいが強化され、活気かっきが出てきたのである。



 それからしばらく月日がったある日、朱貴しゅきの酒場に副頭目の三人が集まっていた。


「いやぁ、相変わらず色々目まぐるしくて忙しいな」


 杜遷とせんが言うと宋万そうまん同意どういした。


まったくだ。だが結果は如実にょじつに現れている。以前の梁山泊とは完全に別世界に感じるぞ」

「……これも首領が細部にまで考えをめくらせているおかげだな」


 朱貴が深く感嘆かんたんを込めて言う。


「おかしらなぁ。まるで人が変わったかのようになっちまって…… あ、嫌だと言ってる訳じゃないぞ? 歓迎かんげいしてるし尊敬そんけいもしてる」


 宋万があわてて取りつくろうと他の副頭目も笑った。


「それは我々も同じだ」


 朱貴はふところから竹簡ちくかんを取り出す。これには王倫が当面とうめんの目標、達成すべき方法までの手順てじゅんなどを分からなくなった時の為にと三人に個別こべつに書いて渡したものだった。これにより副頭目達は忙しくても迷いなく事に対応たいおうでき、精神的せいしんてき負担ふたんはあまり感じずにいられたのである。


「手下達もみな本来ほんらいの自分を取り戻せたようだと喜んでいる」

「昔の首領は酒ばかり飲んでいばりちらし部下に褒美を与える事など滅多めったになかったからな。今では飲酒いんしゅの量も減らしこうある者とばつある者とできちんと対応する」

「なるほどそりゃ活気も出る訳だな」

「……今の姿が本来の首領なのかもしれん。科挙かきょに落ちたというのが信じられんくらいだからな。朝廷ちょうていがこれを知ればふるいにかけた事を後悔こうかいするかもしれないぞ」


 三人の話題はもっぱら王倫だった。


「だが頭目の座をおびやかす者が出てきたらどうなるかわからないのではないか?」

「うーん、今のお頭なら大丈夫の様な気もするけどなぁ」


 杜遷と宋万の会話に朱貴も乗っかる。


「俺も宋万に賛成さんせいだ。根拠こんきょは俺が驚いた首領の言葉だ」

「お、なんだ?」

根城ねじろ備蓄びちくが増えるまでは人は増やしたくない。しかし人はすぐにでも欲しい」


 朱貴が王倫を真似まねて言う。


「あー、言った言った。全員がなにかのなぞかけかと思ったやつな」

「あれはどこかといくさを計画してるから手下を増やせって言ってるのかと思った。わはは」

「その意図いと一芸いちげいひいでた者は優先的に梁山泊に引き入れたいという事だった。昔の首領ならこんな事は絶対言わない」


 三人はしば無言むごんになったがやがて、


「まぁ、我等がお頭と梁山泊の発展はってんについて再度祝おうじゃないか!」

「うむ」

「そうだな」


 さかずきに酒をそそぎ直しこの場にはいない王倫に献杯けんぱいしようとした時、店の入口から不意ふいに呼びかけられる。


「すみません」


 みなが顔を向けるとそこには一人の男が立ってこちらを見ていた。

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