第六十一回 独竜岡の三家荘

 梁山泊りょうざんぱくの北に独竜山どくりゅうざんという場所がある。そのふもと独竜岡どくりゅうこうには三つの村が隣合となりあうように存在していて、西に李家荘りかそう中央ちゅうおう祝家荘しゅくかそう、東に扈家荘こかそうとあり、この三荘さんそう有事ゆうじさいにはおたがいを助け合う盟約めいやくで結ばれていた。


 梁山泊では特産品とくさんひん産地問題さんちもんだい解決かいけつする為に『王家村おうかそん』なる村をつくり、酒や干物ひものなどをここの名産品めいさんひんとして立ち上げた『商工会しょうこうかい』なるものに管理かんりさせ、さらにその中で隊商たいしょう外部がいぶ交易こうえきさせて『利益りえき』を上げようとしたのである。


 この商工会は梁山泊の中から商人しょうにん職人しょくにんの経験を持つ者達を集めた一団いちだんで、杜遷とせん朱貴しゅき宋万そうまんを初め、朱富しゅふう燕順えんじゅん鄭天寿ていてんじゅ湯隆とうりゅう金大堅きんたいけん郭盛かくせい呂方りょほう中々なかなかの顔ぶれとなっていた。


 さらに王倫おうりんは鄭天寿の『銀細工ぎんざいく』を工芸品こうげいひんに。げん兄弟達が養殖ようしょくに成功していた『かにとその卵』も名産品として組み込んだ。燕順には『にわとり』をあつかわせて『鶏とその卵』を。


 これらを商工会が編成へんせいした隊商に持たせ、この三家荘と取り引きを行う計画けいかく実行じっこううつした。湯隆は花栄弓かえいきゅうほかにもいくつかの装備品そうびひん開発かいはつしていたが、王倫と呉用ごようは『武具ぶぐ』を商品として流出りゅうしゅつさせる事には懸念けねんしめし、武具の流通りゅうつう見送みおくられる。


 しかしこれらの品々しなじなが運ばれて行くにあたり、陸路りくろ(馬や牛)、水路すいろ(舟)の運送うんそうにおける重要性じゅうようせいに気がついた梁山泊は『輸送技術ゆそうぎじゅつ』についても独自どくじ知識ちしきや技術を開発していく事になる。


 そんなおり王倫が派遣はけんしていた飲馬川いんばせんからの使者ししゃが戻ってきた。


「そうか! 相手はこちらの提案ていあんおうじてくれたか!」

「はっ! 私が先行せんこうして戻りましたが、裴宣はいせん様、鄧飛とうひ様、孟康もうこう様達もすでに二千の手下と共にこちらに向かっております」


 ※裴宣

 元は孔目こうもく裁判官さいばんかん)をつとめており、真面目まじめかつ厳格げんかくな性格で、公明正大こうめいせいだい裁判さいばんを行ったため鉄面孔目てつめんこうもくとあだ名される。色白で体格は固太かたぶとり。双刀そうとうの使い手でもある。


 ※鄧飛

 もとは錦豹子きんひょうし楊林ようりん盗賊仲間とうぞくなかまであったが、のち飲馬川で孟康と組んで盗賊を始める。後に無実むじつの罪で流刑るけいとなり、飲馬川付近を護送ごそうされる途中だった裴宣を連れ去って首領に迎え、自らは第二位の頭領となった。あだ名は火眼狻猊かがんさんげいで、火眼は赤い目、狻猊さんげい獅子しし(と同一視どういつしされる事もあるが伝説上でんせつじょうの生物)から由来ゆらいする。


 ※孟康

 あだ名は玉旛竿ぎょくはんかんで、玉の旗竿はたざおを意味し、色白ですらりとした長身ちょうしんの持ち主だったことに由来する。飲馬川では第三位の頭領。王倫が求めた元船大工。



 王倫はこの報告ほうこく大層たいそうよろこんだ。


「よく合流ごうりゅうする事を了承りょうしょうしましたな。こちらの事はあまり良く知らないでしょうに」


 晁蓋ちょうがいが言う。王倫は答える。


「うむ。だからこちらの事を詳細しょうさいに伝えたのだ。生辰網せいしんこうたんはっし官軍を撃退げきたいした事に加えて現在の梁山泊の規模きぼ兵糧ひょうろう、手下の数、つどっている頭領の名などもな。その上で合力ごうりきを願った」

「こちらの機密きみつそのものをあけすけにですか?」

「そう、あけすけにだ」

「それは……くわわらぬ訳には参りませんなぁ。いや実に痛快つうかい


 晁蓋は豪快ごうかいに笑いだした。呉用も参ったとばかりに笑っている。こればかりは理屈りくつではないとしか言えないが、晁蓋や呉用は王倫のこのうつわかれたのだ。打算ださんではなく真摯しんし。きっと相手も感じるものがあったのだろう。


「まだまだ繁栄はんえいしそうですなぁ、この梁山泊は」


 宋江そうこう達が去ってからしばらのち、梁山泊に飲馬川の頭領達と手下二千が合流した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る