第六十九回 雷横の来訪

 梁山泊りょうざんぱくには飲馬川いんばせん盗賊達とうぞくたちが加わっていた。彼等かれらは梁山泊を見て驚き、自分達が合流ごうりゅうしようとした判断はんだん間違まちがっていなかったと喜んだ。


 王倫おうりんはその頭目とうもく達に早速さっそく仕事をり、孟康もうこうには梁山泊の造船ぞうせん作業さぎょうを。鄧飛とうひ歩兵ほへい将校しょうこう任命にんめいし、裴宣はいせんには王倫の直属ちょくぞくとして人事面じんじめんの相談、そしてこの地でたまに発生する問題への対処たいしょにあたってもらう事にした。


 これは裴宣の裁判官さいばんかんだった経験をたよっての配置はいちで、彼は早速手下間のごとや非戦闘員(住人)達からあげられてくる問題をたくみに解決していったのだ。


 こういう事にけている人材は梁山泊では貴重なので、裴宣の加入は住民の不満解消にも大いに役立つ事となった。


 そして孟康は手始めに梁山泊にある舟のいくつかを戦闘用に作り変える作業を始める。武器作製担当の湯隆とうりゅうが用意した『連弩れんど』を舟の側面に複数設置し、花栄かえいの様に弓に精通せいつうしていない手下達でも扱える『対人用』のものを。そして『対舟たいふね(船)用』として小型の『船』を用意した。側面に連弩が付いているのは同じだが、船の中央には前方へ向けて巨大な丸太の矢を発射はっしゃする射出台しゃしゅつだいが取り付けられているという代物しろものだ。



 ※連弩

 連射機構れんしゃきこう、もしくは一度に矢を撃ちだせる機構をそなえたいしゆみの一種である。一般的には、げんを引き、矢を設置し、射出するという別々べつべつの動作を、弩を構えた状態のまま、片手の一動作で完了できる弩を指す。これは通常の弩よりも高い発射速度を与える。



 この一撃いちげきで相手の舟に大穴おおあなを空けしずめてしまおうというねらいがあったが、射程しゃてい距離きょりは長いとは言えず、まだ改善かいぜん余地よちがある状態だった。


 それでも官軍が上陸する為だけにで用意する舟とは使用目的も性能せいのうも違うので脅威きょういにはなるだろう。梁山泊は着々ちゃくちゃく独立どくりつした新天地しんてんちとしての道を歩んでいた。


 そんなおり鄆城県うんじょうけん雷横らいおうが梁山泊をたずねて来る。宋江そうこう護送任務ごそうにんむを終えた彼はたまに宋江のその後の様子を王倫に聞きに来ていたのだ。今回も別の任務を完了させたその帰りに寄ったのだと言う。王倫から宋江が流刑先るけいさきで交友関係を広げながらもつつがなく生活していると聞いて雷横は王倫に感謝の意を示す。


「宋江殿が快適かいてきに過ごされているのも王倫様のおかげ。私と朱仝しゅどうは言うにおよばず、上司の時文彬じぶんひんも感謝しております」

「いやいや。みな総意そういでしている事」

「……そう」

「へいきー」


 雷横も王倫との会話に割り込んでいる者達を見て笑顔を見せる。


「それにしても姫君達はこの前お会いした時よりも随分ずいぶんと成長されましたな」

「ははは。私もこの子達には驚きの連続でして。何よりの宝ですよ」


 王倫にめられると恥ずかしくなったのか二人はとてとてと近くにいる林氏りんし背後はいごかくれた。


「そうそう。実は宋江殿の様子を聞く他にもうひとつ話題がありましてな。姫様達にもちょうど良いかもしれませんぞ?」


 それによると現在の鄆城県には東京とうけいから有名な劇団げきだんが来てひらいているというのだ。雷横もそのせきさそわれたのでこれをに王倫や桃香とうか瓢姫ひょうきもどうかと持ちかけた。


「お誘いはうれしいのですが私がここを離れる訳には……」


 王倫は興味がない訳ではなかったが梁山泊を離れる事に懸念けねんしめす。


「良いではないですか義兄上あにうえ。いつも梁山泊の為に尽くしておられるのです。たまにはゆっくり過ごされませ」

「そうですな。この呉用ごようも反対する理由はありませぬ。むしろ人選じんせんはお任せ頂きたい」

留守るすはこの晁蓋ちょうがいに任せて劇を堪能たんのうしてまいられなされ」


 不吉な夢を見ていた訳でもなく、周囲からこれだけすすめられた事もあり、王倫はその公演こうえんを見に行く事に決めた。勿論もちろん姫君ひめぎみ様達さまたちもご機嫌きげんだ。


 呉用の人選でともをするのは林冲りんちゅうとその妻林氏、そして鄭天寿ていてんじゅが選ばれた。



「……雷横殿」

「これは呉用殿。このような所でどうしました?」

「実は個人的にお願いしたい事があるのです」


 呉用は人気ひとけのない場所で雷横に接触せっしょくする。護衛としての林冲。姫達が行くので世話役の林氏もなのだろうというのは誰もが理解できたが、そこへ何故なぜ白面郎君はくめんろうくん鄭天寿なのか。


 皆だけでなく当人とうにんすら疑問ぎもんに思う中、呉用の計画はひそかに進められていくのであった。

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