第百十一回 柴進の決断
柴進は庭に出て空を見上げていた。
(このままではいけないのは私が誰よりも分かっているつもりだが……)
ふうと今日何度目かのため息をつく。
「ご主人様」
そんな柴進の背中に同じく
「ご主人様に
(また王倫殿か
「茶でも……いや、酒の方が良いか。酒の準備を……」
だが入ってきた人物を見てその使用人も柴進も驚く。それほど意外な人物が
「……ご主人様。お酒……でようございますか?」
確認してくる使用人に柴進は首を振って言い直す。
「いや、茶と……何か良い
「かしこまりました」
頭を下げて使用人が出ていく。柴進は来客に向き直り口を開いた。
「まさか……梁山泊の姫君様達が私を訪ねてくれるなどとは思いもしませんでした」
……話は少し
「そうですか。首領でも難しそうでしたか」
話しているのは王倫と副首領の晁蓋。二人は柴進が落ち込んでいるのを立ち直らせようとしていたが、
「ああも落ち込んでいてはかける言葉もみつからぬ。何を言っても柴進殿には届かぬだろう」
「やはり屋敷と土地を失った事で……?」
「うむ。心に重くのしかかっている」
「私も
「私が読み違いをしたばかりに。なんとか柴進殿に立ち直ってもらわねば」
「そんな。首領のせいではありません。首領まで落ち込まないでください」
二人は気付かなかったが、その会話を
(
瓢姫はその場をそっと立ち去った。
「しかし
二人の会話を最後まで聞かずに。
「……」
「……」
その場を
「王倫様にはこのような屋敷を用意していただき、生活に困る事もなく大変感謝いたしております」
さすが
「私達のような幼い者にまでご
桃香が返す。彼女は医者として色々な者を
「今使用人に菓子を買いに行かせていますから
「……お菓子」
瓢姫がぽつりと
「それで……梁山泊でも
その言葉に二人は顔を見合わせる。そして瓢姫が
「……爸爸が落ち込んでいる」
「王倫様が?」
「表には出さないようにしていますが、爸爸は貴方様を完全に救えなかったと
瓢姫の説明に桃香が
「王倫様には恩こそあれ責任などありません。私が最初から忠告に耳を
「元気ない爸爸を見ると私達も悲しい」
「そこでこちらの瓢姫が柴進様に立ち直っていただく為に贈り物をしようという話になったのです」
「贈り物? 私めにですか?」
瓢姫は横に置いてある荷物に手をかけた。入ってきたとき背中に
「……私はここで生まれて育ったから他の場所をしらない。……大きなお屋敷も想像できなかった」
だから、と瓢姫は続ける。
「この梁山泊をあげる」
「!?」
そう言っていくつかの木箱を
「ご主人様。お待たせいたしました。お茶と菓子でございま……おお!」
床に広がる光景に使用人は絶句する。
「これは……なんと
そう大きくない箱の中には確かに梁山泊の風景が広がっていた。王倫の作らせた
「
何をどうしたらこのような物がつくれたのか柴進には見当もつかない。手先の器用な瓢姫が
「この箱……
まるで空の上から見ているような不思議な感覚にとらわれる柴進。
「これは……またとない美術品ですよ。名だたる
瓢姫は恥ずかしがっているようで赤くなりながら最後の箱に手を伸ばす。
「私には大きな屋敷は分からないって言った……けど。桃香の書物にそれらしい絵があったから……これはそれを参考にした」
「!?」
その箱をみた柴進は言葉を失い
「柴進様?」
桃香が呼びかけてくる。
「おおお……」
「こ、こんな屋敷じゃ気に入らない……?」
瓢姫が不安そうになったので柴進は首を振ってそれを否定した。
「いいえ姫様。ただこれは屋敷とは言えません」
「「え……?」」
柴進は目に涙をためて言う。
「これは
柴進は瓢姫と桃香に
「この柴進。ながらく
「「!!」」
「ご主人様……ようございました」
使用人達も目立たぬように泣いていた。柴進を心配していたからこそ立ち直った姿に
「それで瓢姫様。この素晴らしい美術品は何と
瓢姫は考えもしていなかった事に
「え? あ……じおら……」
「じおら?」
「
「なるほど箱庭ですか。うん、まさに。良い感じだと思います」
その後、瓢姫と桃香の二人は
翌日。王倫と晁蓋は姿を現した柴進に驚き、事の
ここに新たな村の
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