第百十回 朱貴の誘い
(
(特に変わったようには私には思えぬがなぁ)
(私にもそう見えますけどね)
(奥方の考えすぎではないのか?)
先を歩く桃香と瓢姫の後ろでぼそぼそとやりとりする王倫と林冲。王倫は
「瓢姫よ、何か悩みがあったりはしないか?」
「
王倫の質問に瓢姫は首を
「行く」
と
「ふーむ。分からない事だらけだな」
彼の
「首領、皆様。お待ちしておりましたよ。ささ、こちらへどうぞ」
朱貴に出迎えられ店内に入ると
「わあ! いい匂い!」
「これは……お腹がすく罠」
桃香と瓢姫が目を輝かせる。これは何かを期待した時の目だ。朱貴は料理の並んだ机に皆を座らせた。
「さあさあ。今日は
「ほう。こいつは楽しみだ」
「ありがとうございます朱貴さん」
「これは……嬉しい罠」
朱貴の料理なら期待できると考えて王倫はふと思う。
(ん? ならば瓢姫を名指しする理由はなんなのだ?)
瓢姫は料理を作るより食べる派だ。その判断に誰も
「まずは温かいうちにお召し上がりください」
「……
「柔らかい!」
「それはある魚の身を
桃香と瓢姫、二人して同じ団子を選ぶとはまだ子供だなと
「あ、首領。それはある手間をかけておりまして。頭以外はがぶりとそのままいっちゃってください」
「な、何? 焼き魚だぞ? しかもこの魚は……」
王倫の反応に林冲も楊志も注目する。
「釣ったその場で焼いて食べても
楊志が同じ料理を
「じゃあ
楊志は頭を
「ん!?」
にこにこしている朱貴。
「こ、こいつは……」
「小骨が全然ないぞ。いや驚いた」
その反応で王倫や林冲、
「このお魚は
朱貴は林氏のその一言を待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。
「ふふふ。実はこれのおかげです」
ある道具を取り出してかざす。
「あ、それ……」
瓢姫が見るなり
「そうです。瓢姫様考案の
「うん? 瓢姫考案の道具? 私は
王倫はそう言って周りの様子を見る。林冲も妻と顔を見合わせているし楊志もきょとんとしている。どうやら初耳なのは王倫だけではないらしい。
「そりゃあそうです。
朱貴が
「おそらくこれを持っているのは梁山泊広しと言えども瓢姫様と湯隆殿。そして私くらいのものでしょう」
「朱貴殿。それでそれは何が
楊志が質問する。王倫はどうせ聞くなら考案した瓢姫に聞けばいいのにと思い、
それによるとこれは指先では困難な細かい作業を補助してくれる道具らしい。その手先の器用さでは皆が知っている瓢姫がさらにその
「私はこれを知った時、何か料理に使えるような予感がしまして。頼み込んでひとつ譲ってもらったんです」
「それがこの料理の数々という訳か」
「そうです。魚なのにあるはずの骨がない上に柔らかく食べやすい。この鶏の肉料理も骨の多い部位を使ってみたものです」
「それを使って骨を取り除いたのか!」
「後は形を本来の姿に戻したりですね」
「確かに……そう聞くとこのお料理は手間がかかっておりますね……」
「……驚くほど美味しかった」
「だよね瓢姫。私も私も」
皆感心している。瓢姫すらも。
「うん? その様子だと瓢姫はいったい何の為にそれを考え出そうとしたのだ?」
瓢姫の
「あう……」
「それは……爸爸のために……」
それだけ言うとそれっきり口をつぐんでしまった。はたしてこの道具と王倫がどう結びつくというのだろうか。
※補足
鑷子とはピンセットの事です。まさかピンセットと書くわけにもいかず、他に適当な言葉もなかったので和名表記をそのまま使わせていただきました。
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