第四十一回 捕虜となった二人

 戦いは梁山泊りょうざんぱく側の勝利しょうり終結しゅうけつした。索超さくちょう周勤しゅうきんを失った北京大名府ほっけいだいめいふ側の兵士達はその時点じてん降伏こうふくする事を選んだ。


 結果的けっかてきには梁山泊の圧勝あっしょうと言って良かった。降伏した者達は捕虜ほりょとなり武装ぶそうかれ集められているが、その命運めいうん指揮官しきかんのものもふくめて王倫おうりんにぎっている。だがその王倫はすぐに戦後処理せんごしょりおこなわなかった。


 別の部屋にて何もされず、ただ拘束こうそくされているだけの周勤はそれを不思議に思う。


「一体我々はどうなるんでしょう?」


 周謹はひとごとつぶやいた訳ではない。同じ部屋で同じ様に拘束されている男に問うたのだ。


「放っておいても死んでいた俺をわざわざ助けるような奴等やつらの考えなどわからん」


 それは索超さくちょうだった。水中にしずみながら意識いしきを失いかけた彼は死を迎える直前に阮小二げんしょうじに助けられ晁蓋ちょうがいの舟へと引きあげられていたのだ。


 阮兄弟からなる漁師りょうし部隊ぶたい。彼等に索超達の舟は水中から穴を開けられ次々つぎつぎと沈められた。だがおぼれかけた部下は囲んでいた梁山泊の舟で全員救出ぜんいんきゅうしゅつされたのだという。


 索超も周謹もこのような『戦われ方』をした経験けいけんはなく、手間てまをかけた梁山泊の真意しんいをはかりかねていた訳である。


 しかし戦いにおいてやぶれた側の指揮官は責任せきにんを問われ処刑しょけいされてもおかしくないと考えていた索超はその考えをてきれない。だとすればそこに結びつけて出た答えはひとつ。


「皆の前で見せしめに処刑するつもりなのだ」


 手強てごわかったとはいえ相手は山賊さんぞく。その為に助けたのだとしたらる話だとに落ちた索超。同時にみじめさと怒りの感情が押し寄せてくる。


「そんな事をするつもりなどないぞ索超。それに周謹」


 二人は突然声をかけてきた人物を見て驚く!


楊志ようし! 楊志ではないか! 助けに来てくれたのか?」


 楊志を認めていた索超は地獄じごくほとけとばかりの表情になる。


「ち、違います師匠! その男は私を捕らえた相手です!」

「な、何? あんたは!」


 周謹は楊志に続いて入ってきた男を見て彼が自分達を助けに来た訳ではない事をさとった。


「周謹を倒したというのはあんただったか。なら無理もない」

もと禁軍きんぐん槍棒師範そうぼうしはん豹子頭ひょうしとう林冲りんちゅうにござる」


 それが自分と引き分けた男だったので、周謹が負けたのは仕方ないと思う反面はんめん、名の聞こえた人物が賊になっている事実に驚く。


「ど……どういう事だ。一体この梁山泊とはなんなのだ……」


 生辰網せいしんこうを取り戻せ。そのめいに逆らえず出兵しゅっぺいしてきた索超。武官として戦いにおもむいたからには必勝ひっしょうこころざしを立てていたにも関わらずいいように翻弄ほんろうされ、あまつさえこの結果を突きつけた相手に得体えたいのしれなさを感じた。


「そう構えなくても一から教えるさ。義兄あにきが手が離せない間に説明役を頼まれているからな」

「義兄? 説明役?」


 楊志は王倫の事、自分が賊になった理由、生辰網を狙ったいきさつと結果などをつつかくさず話して聞かせる。林冲も自分の身の上に起きた事を話す。その頃には索超と周謹も落ち着いていたので楊志と林冲は彼らの拘束をいた。


 北京の二人も生辰網の取り立てには心苦こころぐるしさを感じていたので、楊志の話に共感きょうかんできる部分はあったのだが完璧かんぺきすぎる王倫にはやや疑念ぎねんを持つ。


「そんな好人物こうじんぶつがいるとは信じられん……」


 しくも王倫が晁蓋ちょうがいに向けた言葉をこの時自分に向けられていたなど彼は考えてもいないだろう。


うらなどないさ。俺達が義兄弟になったのもそこに感銘かんめいを受けたからなんだが……」


 楊志と林冲は顔を見合わせてうなずく。


「聞かせるより見せた方が早いか。自慢じまんの義兄とこの梁山泊を見てもらおう」


 二人はそう言って索超と周謹を連れ出した。

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