第四十回 決着

 水上すいじょうにて梁山泊りょうざんぱく軍に囲まれた索超さくちょう。岸からはときの声が上がる。それによるとどうやら周謹しゅうきんは生けりになった事が分かる。これでは陸上の兵士は次々つぎつぎ降伏こうふくしてしまうだろう。これで完全に索超は孤立こりつした。


「さぁ貴殿も大人しく降伏されよ!」


 火矢で狙いをつけられた状態。


「……降伏するか焼け死ぬかを選べって事かい。いやはやお優しいねぇ」


 このまま続けても被害ひがいだけが出るのは索超でも分かった。


「どうやら俺はいい指揮官しきかんじゃなかったようだ」

「索超様?」

「すまねぇなぁお前達。俺はどれも選ばねぇ」

「……」

「選べる訳がねぇ。周謹は降伏したんじゃないんだからな。弟子でしが戦って生け捕られたってのにその師匠ししょうが降伏なんてできるかい」

「索超様……」

「俺はもう一つの『に』を選ぶ。お前達は舟を移って降伏しろ」


 だが以外な事に索超の部下はそれをこばんだ。索超は説得せっとくしたが部下達の心はらがなかった。


仕方しかたない奴らだ。じゃあせめてあの世では酒でもおごらせてくれ」

「ご馳走ちそうになります!」


 索超は晁蓋ちょうがいに向かってさけぶ。


「俺は索超! 晁蓋、俺様と勝負しやがれ!」


 索超の乗った舟が動き出す。他の舟もそれを見て覚悟かくごを決めたのか動き始めた。


「……やはりそうなるか。仕方ない」


 晁蓋には一騎打ちに応じる気はない。なぜならこれはまだ自分にせられた役目の途中とちゅうなのだから。


 彼は再び太鼓たいこを鳴らす様に命をくだす。そして自身の乗った舟を前に。索超にしてみれば一騎打ちに応じた晁蓋が士気しきを上げる為太鼓を鳴らし進み出てきた様に見えた。


「へっ。いい度胸どきょうだ。だがな、そいつは失敗だぜ? 周謹との戦い見せてもらったが俺様の腕の方が上だ……うぇ?」

「あ、ああ!?」


 索超は部下の叫びと共に身体に急なかたむきを感じて周りを見る。


「水が!?」


 舟に穴が開き浸水しんすいが始まっていた。このままでは確実にしずむだろう。


「!!?」


 後方の他の舟にも同様の事が起きているようだ。


「な、なにが…… っ!?」


 索超は人影ひとかげを見た。自分の下方かほう……『水中すいちゅう』を晁蓋の方へ向かって泳いだ人影を。


 よろいを着て武器まで持った状態で水の中に落とされたらほぼ確実に溺死できしへと一直線だ。仮に泳げても弓や槍で攻撃されたら反撃はんげきなど出来ないだろう。


(火矢や晁蓋の動きは水中へ注意を向けさせない為だったのか!)


「してやられたよ見事みごとだ!」


 索超は晁蓋に叫ぶ。周囲はすでに悲鳴ひめいつつまれはじめ、自分の舟も完全に水没すいぼつしようとしていた。


「見事だが……ちくしょおおぉぉ!」


おぼになんて選択せんたくもあったのか。最後がこんな終わり方ですまないな相棒あいぼう


 ……索超は長年ながねんった相棒『金蘸斧きんさんぷ』と共に湖底こていへと沈んでいくのだった。


(武官として死は覚悟していたつもりだったが最後はこんな死に様か。……梁山泊……手強てごわかったなぁ)


 水中へとさしこむ光。音は遮断しゃだんされ視界しかいには泳ぐ魚。


(こんな景色けしきも……あったのか……)


 急先鋒きゅうせんぽう索超。思わず流した最後のなみだは涙と認識にんしきもされず梁山泊の湖水こすいとなって消えた。

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