第四十二回 新たな仲間

 連れ出された索超さくちょう周謹しゅうきんはありえない光景に目を疑った。


 降伏こうふくした兵達は武装ぶそうこそ解除かいじょさせられていたものの、食事を与えられ、怪我けがをした者はその治療ちりょうおこなわれている。当然とうぜん両軍りょうぐんとも無傷むきずとはいかず少数とはいえ死者も出ていた。


 だが王倫おうりんが手が離せないという理由は率先そっせんしてその対処たいしょにあたっていたからであり、敵兵の死であろうとも悲しみ、涙さえ見せた。他の頭目とうもく達も感化かんかされたのか決して索超の部下達を無下むげに扱う様な真似まねはしなかったのである。


 それだけではなく梁山泊りょうざんぱくに参加する意思のある者はそのまま受け入れ、帰郷ききょうを望む者にはわずかながらの路銀ろぎんを。亡くなった兵士の家族へは見舞金みまいきんまで用意した事にも二人は大層たいそうおどろいた。


「味方になら分かる。だが敵の兵士の家族にまで気を回すのか!」

「それにいくさあとだというのにこの雰囲気ふんいき。とても敵同士だった者達とは思えません」

義兄あにきがそうさせているのさ」

「同じ国の者同士で争わせるのは不幸であるからそれは極力きょくりょくけさせたいというのが義兄上あにうえの考えなのです」

「む、むう……」


 楊志ようし林冲りんちゅうの説明に索超は言葉を出せずうなった。


「王倫の兄貴はこの梁山泊を権力で踏みにじられる事のない新天地しんてんちにしようとしている。だが資金も資材も人材もまだまだ足りぬのだ。どうだろう? 二人が加わってくれればこのさいはもっと豊かになれる」


 余裕よゆうがなくとも他者にほどこす王倫と、賄賂わいろで自分の出世を狙う梁世傑りょうせいけつとは雲泥うんでいの差だ。感銘かんめいを受けた索超は周謹と共に帰郷を望む者をまとめて北京ほっけいへ連れ帰り、死亡した家族へ見舞金を渡してから梁山泊へ帰順きじゅんするとちかった。


 そしてそれから歓待かんたいを受けた二人は梁山泊を出立しゅったつし、城へ戻る兵士に自分達が梁山泊に加わった事を梁世傑に伝えさせ、約束通り戻ってきたのだが……


「索超と周謹の二人だけではなかったのか?」

「おう楊志。それが話を聞いて北京に見切りをつけた家族などから是非ぜひにと移住いじゅう口添くちぞえを頼まれてしまってな……」

「追っ手がかからず良かったですよ」


 と、結構な人数を連れてくる。王倫はこれを喜んで迎え入れ、晁蓋ちょうがい呉用ごよう達も賛同さんどうした。


 それから数日後、王倫は組織そしき改革かいかく着手ちゃくしゅしその案を発表する。それによると首領しゅりょう王倫をかしらとして、副首領に晁蓋。軍師ぐんしに呉用。副軍師及び機密きみつあつか将校しょうこう公孫勝こうそんしょう義弟ぎていである林冲と楊志を騎兵きへい大将たいしょう。新たに加わった索超を騎兵兼歩兵大将。周謹を騎兵兼歩兵将校。劉唐りゅうとうを歩兵大将。げん三兄弟を水軍の大将。朱貴しゅき杜遷とせん宋万そうまんを王倫直属の情報将校。白勝はくしょうを情報及び伝達でんたつ将校とした。


 平時へいじにおいては今まで通り特技のある者はそれをかし酒屋の店主や漁師として働き、練兵れんぺいなどにも力を入れ、手下の数は二千を超えていた。


 北京大名府ほっけいだいめいふの梁世傑はこの数に加えて索超と周謹が梁山泊に寝返ねがえり、さらに楊志や林冲までもが居ると聞きとても手を出す気にならなくなっていたのである。


 そのおかげか梁山泊はしばらく開発と内政に集中できるようになるのだが、王倫は先の一戦で梁山泊に欠けているものを痛感つうかんしていた。そして組織改変そしきかいへんと同時にその穴をめようと皆を集める。


 ……王倫の次なる狙いとは? つかの平和が訪れた梁山泊。この時王倫は三十二歳になろうとしていた。

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