第百二十九回 旅する四人
徽宗は造園遊戯に夢中になり、連日宿元景の屋敷を訪れては
(あれだけ夢中になっていたのにそんな簡単にお飽きになられるものだろうか?)
今では徽宗の来訪を楽しみにしていた部分もあった彼は少しさびしさを感じた。そして徽宗の側近に一人の人物が取り立てられていた事もその感情を自覚する原因のひとつだったと考えられる。
男の名は
この張叔夜という人物。知る者達からは優秀で
その日も公務の報告の為に徽宗のもとを訪れる。そこには蔡京と……やはり張叔夜の姿があった。宿元景と蔡京はそれぞれ陛下に報告を終える。徽宗は時折ちらちらと張叔夜に視線を送っていたが、
「うむ。二人共ご苦労。今日は下がって休むがよい」
と、声をかけられた。……ふと蔡京と顔を見合わすも二人で陛下に拝礼し、並んで部屋を後にする。蔡京とはお互い特に言葉も交わさず別れた。
(そういえば……少し口数がお減りになられたか……?)
ふと徽宗に対してそんな思いが頭をよぎったが、
─やはり同じ頃。
「いやぁ。天気も崩れず目的地近くまで来れて良かったですねぇ。おいらはもう腹が減って腹が減って……」
大きな荷物を背負った男が空腹を訴えている。
「ははは。着いたら食べさせてやるからもう少し頼むぞ
「陛……
「!? なんて事言うんですか。これは人間が抱く当たり前の感情ですよ?
「あー、分かった分かった」
どうやらこの四人組は真、全、格、馬万里と呼びあう旅人ようだ。やりとりから推測するなら梁山泊……おそらく
「しかしこの辺りはもう少し物騒なものだと思っていましたけどね」
格さんという男が周辺の状況を見て言う。
「同じ
全と呼ばれる男も自分の考えを口にしようとした時、前方から一頭の馬がこちらに駆けてくるのが見えた。乗っているのは……女だ。
四人は道の端に移動し馬を通そうとしたが、何故かその馬はすぐそばに来ると一度停止した。
「助けてください! 怪しい男達に追われて! すぐに奴等が!」
顔立ちの整った女が馬上で呼吸を荒くしながら
「……確かに。ではこのままお行きなさい。ここはこちらが引き受けよう」
「! ありがとうございます!」
真が助力を申し出る。女は礼を言うとこちらを振り向く事なく駆け出して行った。
「ちょ。おいらは戦えませんからね!?」
「馬万里はあてにしていないよ。全さん、格さん」
「……はっ」
「仕方ないですねぇ」
そして女を追ってくる男達を
「
「ああ
「しっかり近くに仲間がいたようですな。こうなりゃあいつらから目的を吐かしてやる!」
巡回中に女を発見した楊志と突然馬を盗まれた燕順、たまたま近くにいて
こうしてその四人組と楊志達はお互いの事情を知らないまま相対する事となった。楊志と劉唐は梁山泊では
「
一転不利になった楊志達。だが運は彼らに味方していた。四人組の後方を歩いていた二人が突然参戦してきたのだ!
「楊志殿!
それは
彼らは偶然騒動が起きている現場に
しかしこの二人も二本の槍を持つ格と隙を突いては礫を放ってくる全の連携の前に膝を折らされた。そして彼らの行動が
「く……次から次へと」
「人相の悪い奴等が揃ってやがるな。どいつもそれなりに腕が立つのが
「お二人が無理ならいっそ諦めて帰りましょうよぉ」
全と格の会話に馬万里が泣き言をもらす。だが二人は息ぴったりにまだまだやれると豪語した。真はその意気を信じて止める気はないようだ。むしろ魯智深と武松を
力なら魯智深、武松組。技量なら格と全の二人。もし全員を知る者がいたならばこう評されるであろう戦いであったが、今まで楊志をはじめ
格は双槍で魯智深と武松を引き付け、全の礫は正確無比に相手を狙う。魯智深が利き手に礫を受けて六十二斤の禅杖を地面に落とした。
「痛ぇ! くそっ!」
「俺の礫は地面に無数にある」
全の礫が厄介なのは理解できているが、彼を狙おうとすると格にそれを阻まれる。負傷者だけが増えていく現状。この二人を止められる者はいないのか。
だが天運はそれでも梁山泊側にあり、天命はこの場所に彼女達を呼び寄せるのだった。
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