第三十五回 和解

 現在げんざい梁山泊りょうざんぱくでは真剣しんけんな話し合いがおこなわれていた。王倫おうりん呉用ごようの予想する展開てんかいがぴたりと一致いっちしていた為、劉唐りゅうとうげん三兄弟も野次やじをとばさず話し合いを見守っている。各々おのおの関係ありそうな話題をまとめるとこんな感じだろう。


 ・梁山泊の防衛ぼうえい

 ・晁蓋ちょうがい達の扱い

 ・生辰網せいしんこう所有権しょゆうけん


 現状げんじょうでは梁山泊側が晁蓋達の生殺与奪せいさつよだつの権利をにぎっているに等しい。しかし王倫は生辰網の事にも晁蓋達の事にもれず対官軍のさくを語り始めた。


「さて。晁蓋殿達が梁山泊に逃げた事をつかまれた以上は官軍と本格的にほこまじえなければいけなくなるだろう」

「確かに。もうここにはいませんと言った所で素直に帰る事はしないでしょうね」

「うむ。発展しつつある我等われら新天地しんてんちはなんとしても守らねばならない。その為に内政ないせいにもはげんできたし、外敵がいてきに備えて林冲りんちゅう楊志ようし練兵れんぺいさせてもきたのだ」


 遅かれ早かれ官軍との衝突しょうとつけられない。今がその時なのだろうと王倫はいた。


「待ってください王倫殿。それは元々もともとこちらがまねいた戦い。それに先程さきほどから私達の事には一切いっさいれておらぬのも気になります」


 晁蓋が真剣な顔でうったえると王倫はすずしい顔をして言う。


「触れぬも何も晁蓋殿は仲間と共に不義ふぎの財、生辰網を奪い安全な地を求めてこの梁山泊へ逃れてきたのでしょう?」


 晁蓋がこれを肯定こうていすると王倫は全員が驚く事を言ってのけた。


「我等はぞくです。私や杜遷とせん朱貴しゅき宋万そうまんはもとより林冲、楊志にいたっては官職かんしょくを捨ててこの梁山泊の賊となりました。賊である以上官軍と戦う覚悟かくごはあります」


 しかし晁蓋達は賊ではない。そうでない者に戦わせるつもりは毛頭もうとうないし、山寨さんさい発展はってんをはやめる為に生辰網を狙ったがそれは晁蓋殿達の手に落ちた。世の為に使おうとしているそれを奪う事は出来ないが梁山泊は以前と違い自活じかつが可能な土地になっているので問題はない。


「私達が官軍を撃退げきたいして周辺が落ち着いたら好きに行動されると良いでしょう」


 これらをあわせて伝えた王倫の物言ものいいに梁山泊りょうざんぱく幹部かんぶも驚いたものの、


義兄上あにうえさすがです! この林冲に異論いろんはございませぬ」

「ふふふ…… 俺もいま義兄あにきをはかれぬ。最後まで付き合わせてもらおう」

首領しゅりょうが言われるならしたがうまでです」

「そうだな。なんとでもなりそうだしな」

「今までも驚きの連続だったしなぁ」


 こんな感じでわりとすんなり納得なっとくされた。だがこの王倫の態度たいどは義によって立ち上がった晁蓋の心を大いにふるわす。


是非ぜひ聞いてほしい。北斗七星ほくとしちせいみちびかれた同志どうし達よ」


 ※晁蓋は劉唐達と出会う直前、自宅に北斗七星が降ってくる夢を見ていた。その話を呉用が聞いて計画達成の為に集う仲間が七人だと推測すいそく。すなわち呉用、公孫勝こうそんしょう、劉唐、阮小二げんしょうじ阮小五げんしょうご阮小七げんしょうしち白勝はくしょうの事である。


 晁蓋は呉用達を見て言った。


「私はこの戦いを見ない振りは出来ぬ。いやむしろこれだけの事を言ってくれる方達を放って何が世直しか」


 本人は参加する。だがそれを他の者には押し付けないし、参加せずともめたりしないと伝える晁蓋。しかし真っ先に劉唐と公孫勝が賛同さんどうすると呉用も同意どういし、そしてまだ王倫を信じきれない様子の阮三兄弟も渋々しぶしぶながら了承りょうしょうした。


「と、いう訳です。是非私達も参戦さんせんさせて頂きたい!」


 晁蓋は王倫に決意けついにみちた眼差まなざしを向ける。


「……分かりました。では改めて対抗たいこうする為の策をり直す事といたしましょう。その前にひとつ教えて欲しいのですが……」


 王倫は北斗七星という単語に興味を示し晁蓋に詳細しょうさいを聞きたがった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る