第四十四回 思わぬ再会

 孟康もうこう。その腕前は評判ひょうばんだったが、花石綱かせきこう運搬うんぱんの大型船の建造けんぞうを命じられた際、仕事をせかす朝廷ちょうてい監督官かんとくかん横暴おうぼうに耐えかねこれを殺害して逃亡したと楊志ようしは説明した。


「まぁ嵐に遭遇そうぐうして船は沈没ちんぼつし、結局任務も失敗した訳なんだが……あの船ならば確かに梁山泊りょうざんぱくの舟は小舟こぶねにしか見えん」


 だが以降の行方ゆくえは分からないというので、当面は平時の開発を進め、王倫おうりんげた者達の情報を集めるという方針ほうしんに落ち着く。


首領しゅりょうよろしいですか?」


 その頃合ころあいを見計みはからって晁蓋ちょうがいが口を開いた。


「実は是非ぜひ許可きょかを頂きたい事があるのですが」


 それは自分達が役人に捕まらず、こうして梁山泊に合流できたのはある人物のおかげであるという話から始まる。


「なるほど。その宋江そうこうという人物にお礼がしたいというのですね」


 それにはバツの悪そうな顔をしている白勝はくしょう以外が全員同意していたので王倫はそれを許可した。


「いやぁ首領は話が分かる! 全くこいつの博打ばくち好きのせいで一時はどうなる事かと思ったぜ」


 劉唐りゅうとうが白勝に嫌味いやみを言う。楊志はそれで思い出した事があった。


「まぁ礼に関しては副首領と軍師殿に一任するので好きにするといいでしょう」

「感謝します」

義兄あにきちょっといいかい?」


 楊志は晁蓋らに思い出した事を話す。


「晁蓋殿。生辰網せいしんこうの時に俺がしびぐすりられた時の事なんだが」


 どちらの酒にも薬は入ってなかったはず。それがなぜしてやられたのかという疑問だった。それには呉用ごようが答える。


「我らが買った以外のもう片方の酒樽さかだる。あれに我々われわれがちょっかいを出したのでそれを見て入ってないと思ったのでしょう?」

「そうだ。軍師殿達が飲んだのを見てな」

「じゃあそれをあっしが奪い返したのも見ていたんでしょう」

「ああ」


 白勝に返事をする楊志。


たねを知れば簡単な事。白勝がその酒を酒樽へ『戻す時』に一緒に薬を入れたのです」


 呉用が言い楊志はハッとして固まった。


「……な、なるほどな。いや合点がてんがいった」


 楊志は何度も感心している。


「でもね楊志殿。この馬鹿ばかは計画の実行前にその酒樽をけて博打してやがったんですよ?」

「あ、あの時は勝ったんだからいいだろ!」

「そういう問題じゃねぇんだよ!計画がおじゃんになったかもしれないんだぞ」

「白勝だけに白紙はくしにしよう(駄洒落だじゃれのつもり)ってか? こっちはそうなってくれた方が良かったかもしれないがな。なぁ周勤しゅうきん

索超さくちょうよ。そうなれば俺が生辰網を頂いて義兄に渡していただけだ」


 敵味方に別れていた者達がそのまま当時とうじ裏話うらばなしで盛り上がった。方針も決まり梁山泊に平和が訪れる。さらにしばら経過けいかし王倫が三十二歳を迎える前日の夜、彼は夢の中で南斗聖君なんとせいくんに会うのだった。



「ここは……天命殿てんめいでんか? 私は寝所しんじょで眠りについたと思っていたが……」

「ここは貴方あなたの夢の中ですよ」


 王倫は忘れようもないその声のした方を向く。


「南斗聖君様!」


 平伏へいふくしようとする王倫を制止せいしする南斗聖君。その姿はうすぼんやりと光を放っていた。


「お久しぶりですね。元気そうで何よりです。これは私と北斗聖君ほくとせいくんですか」


 南斗聖君は木像もくぞう絵画かいがを見て照れ笑いを浮かべる。一方の王倫は感極かんきわまって涙が止まらない。南斗聖君は王倫が落ち着くのを静かに待った。


「お恥ずかしい所をお見せしまして」


 王倫は自分でそういう面を散々さんざん見せておきながら、何を今更いまさら言っているのだろうかと思いながらも謝罪しゃざいする。


「いえいえ。随分ずいぶん頑張がんばっていましたね」


 その言葉に再びぐっと来るものをこらえる王倫。


「実は頑張っている貴方にお願いがあってやって来たのです」

「私に出来る事でしょうか? そうであればなんなりと!」

「ふふふ。むしろ貴方にしか頼めない事なのです。実は……」


 南斗聖君は自信無さげにもふたつ返事でこたえる王倫に微笑ほほえんでから用件ようけんを伝えた。

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