第二十二回 潜入! 北京大名府

 楊志ようし北京ほっけい大名府だいめいふにいた。それもろうの中に。

 なぜこんな事になったのかと言えばそう仕向しむけたからだ。


 朱貴しゅきから生辰網せいしんこうの話を聞かされた梁山泊りょうざんぱく面々めんめんはそれを強奪ごうだつするため画策かくさくする。まずは腕の立つ者という事で林冲りんちゅうと楊志が候補こうほがったが、林冲はおたずものになっているのでそうはならなかった楊志がもぐむ事になった。


 北京大名府に到着した楊志と部下達はまず別々べつべつに酒屋に入り騒動そうどうを起こす。店にいちゃもんをつけ暴れ始める部下十二名。誰かが役人を呼びに走っている間、それを『たまたま』店にいた楊志が止めに入り打ちのめした。


 部下達を追い払い店に迷惑料めいわくりょうだと金子きんすを渡し、駆けつけた役人に事情を聞かれるためしばし牢に拘留こうりゅうされる。


 役人にも賄賂わいろを渡し、店の者からの陳情ちんじょうもありあとは武勇伝ぶゆうでんがある人物の耳に入るのを待つ。

 果たして…… その人物は楊志の前に現れた。


 北京大名府の司令官しれいかん梁世傑りょうせいけつその人である。

 ならず者を一人で蹴散けちらしたという報告を聞き、直接会ってみようという気になった。一定の手順を踏むより早いだろうと楊志に興味を持たせる為の芝居しばいこうそうしたのだ。


 その後楊志の出自しゅつじ経緯けいい(開封府かいほうふから放浪ほうろうしている設定)を聞いた梁世傑は、どうしても楊志を部下に加えたくなった。そこで御前試合ごぜんじあいを開き、武官の一人、周謹しゅうきんと戦わせたところ楊志はこれを軽く破り梁世傑を大いに喜ばせる。


 余りに喜び、相手をした周謹のいていた役職にそのまま任命にんめいしようとしたのだが、ぽっと出の楊志を良く思わない男が一人待ったをかけた。


 男の名は索超さくちょう。周謹の上官であり武芸の師でもあった索超はこれを不服ふふくとして楊志に戦いをいどんだ。大名府では急先鋒きゅうせんぽう渾名あだなされる程短気で、金蘸斧きんさんぷという金色の大きなおの得物えものとしていた。


 楊志と索超は梁世傑の目の前で好勝負を繰り広げ、楊志を認めた索超のすすめもあり、彼は索超と同じ提轄使ていかつし(憲兵けんぺいの長)に任命にんめいされる。


 やや話が上手く行き過ぎた感はあったが、まずは官職かんしょくて大名府にとどまる事に成功した楊志。


 そしてその幸運は続き、狙い通り生辰網運搬の為の計画けいかく立案りつあんとその護送ごそうを任される事になった。楊志の本当の目的はこれの強奪ごうだつなので、いかに梁山泊のせいに見せかけずに奪わせるかを考えなければならない。まともに軍で周囲を固めて梁山泊付近を通れば必ず双方そうほうに被害が出るし梁山泊が敵視てきしされるのは確実だ。


 ゆえに梁山泊軍には空振からぶりをさせて、謎の一団(梁山泊の別働隊べつどうたい)にでも生辰網を奪わせるのが矛先ほこさきをこちらに向けない最上さいじょうの展開だろうと楊志は考えた。


「護送部隊はおとり?」

「そうです。護送部隊は梁山泊近くを通り、そこでぞくの部隊を引き付けます。その間に少数編成の運搬部隊がその地を一気に抜けてしまうのです。梁山泊さえ抜けてしまえば生辰網は無事に蔡京さいけい様のもとへと届きましょう」


 梁世傑はなるほどと考える。


「囮の指揮官は誰が良いと考える?」

「周謹がよろしいかと。私は商隊の振りをした少数の部隊を率いて囮の部隊と梁山泊の賊どもがにらみあっている間に裏道うらみちを一気に抜けてしまいます」

「ふむふむ。いけそうだな」


 だがそこに待ったをかけた男がいた。索超である。


「待て楊志」

「なんだ索超」

「俺は考えるのは苦手だから方法は任せる。だがそこには俺の出番がないではないか」

「……いや、索超は大名府を守るという重要な仕事があるだろう」

「それはつまらん。そうだ、周謹の役目を俺とかえてくれ」

「な、なに?」


 索超は楊志と引き分けた腕前の男。梁山泊の楊志としては周謹相手の方がやりやすいがここでこだわ疑念ぎねんいだかれては元も子もない。結局押し切られる形で囮部隊を率いるのは索超となってしまった。


 多少たしょう目論見もくろみくるった楊志。大名府に潜んでいる部下にそのむねも加えて梁山泊へと伝えさせた。


 果たして、梁山泊の面々めんめんによる生辰網強奪計画の結末けつまつは……

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