第135話【たまやー】

「おーい、沙耶。

もうすぐ始まるぞ」


「ん〜ん。

何が〜?」


沙耶は目をつぶったまま答える。


「花火だよ花火」


「花火〜?

あ、そうだね。

花火ね花火」


口をむにゃむにゃさせながら答える。

可愛いなこいつ。


「さっさと起きろ」


俺は軽く沙耶の鼻をつまむ。


「うぎゅっ!

やめ、やめて〜。

起きる〜。

起きるから〜」


手を前にバタバタさせてからムクっと起き上がる。


「ん?

ん〜。

あ、うん」


周りを一回ぐるっと見渡してから自分が何をしていたかを思い出したようだ。


「おはよ。

どうだった俺の膝枕?」


「最高でした」


「沙耶、ヨダレ」


「え!

うそ!」


「ほんと」


俺はポケットに入れていたポケットティッシュを取り出して一枚取り沙耶の口元を拭いてやる。


「ん〜。

自分で出来るよ〜」


「いいからいいから」


「あとどのぐらいで始まるの?」


「もう始まるよ」


『只今より、花火を打ち上げます。

存分にお楽しみください』


ひゅるひゅるひゅるひゅる〜。

ドーン!

パラパラ。


遠くの方から小さくアナウンスよ声が聞こえて来たと思ったらすぐに花火が上がった。


「お!

始まったな!」


「綺麗だね!

ね!」


沙耶は完全に復活したようで元気にはしゃいでいる。


「たまや〜!

ねえねえ、快人くん。

何で花火見てたまや〜って叫ぶんだろうね?

何が由来なの?」


「知らないで叫んでたのかよ」


「えへへへっ。

雰囲気で」


「ま、簡単に言うと江戸時代に鍵屋と玉屋っていう花火屋があって競い合っていて玉屋の花火が上がったぞってことで「よ、たまや〜」みたいな感じで掛け声を上げてたんだって」


「へぇー。

快人くん物知りだね」


「前にテレビでやってただけだけどね」




「お、連発だ!」


それから結構時間がたち、最後の連発が始まった。


「もう終わっちゃうね」


「そうだな。

綺麗だけどもう終わるんだって感じで悲しくもなるよな」


「だね〜」



『本日の花火大会はこれで終了とします。

気を付けてお帰りください』


花火が終わりまた遠くの方から小さくアナウンスが聞こえてくる。


「終わったな」


「そうだね」


俺たちは花火が終わったのにも関わらずベンチに座りボーッとしていた。

花火が終わって少し経ったので周りの人もいなくなった。


「これからどうする?」


「え〜。

そこは今夜は帰さねえぜキリッって言うところじゃないの?」


「ヘタレでごめんなさい」


「じゃあ、こんなのどう?」


そう言って沙耶は俺に顔を近づけてきてチュッとキスをしてきた。


「今日は帰さないでください」


そして顔を離した沙耶は頬を赤らめた上目遣いでそう呟いた。


やばい、めちゃくちゃえろい!


「うん。

今日は帰さない」


俺は沙耶にもう一度キスをして抱きしめる。


「じゃあ、行こうか」


「うん」


そうして二人は寄り添いながらカエデにオススメされたラブホテルに向かっていった。

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