第156話【私達が帰ってから渡してください】
「ほら、沙耶。
そろそろ機嫌直せよ」
「だって〜」
あの騒動が収まったあと、俺は俺に用意された部屋で沙耶を膝枕しながら頭を撫で慰めていた。
「照さんも悪気があったわけじゃないだろう?
ただ沙耶の大ファンで会えて嬉しくて興奮してしまっただけだ」
「わかってるけど」
「じゃあ、何が不満なんだ?」
「快人くん以外の人に身体を汚された。
私の身体を好きにしていいのは快人くんだけなのに」
沙耶は寝返りを打ち俺のお腹に顔を埋めながら恥ずかしいことを言ってくる。
「おお、そんなこと言われると何も言えなくなるな」
コンコンコン。
「快人様、沙耶様。
少しよろしいでしょうか?」
俺がどうするかな〜と悩んでいるとノックの後、三田さんの声が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
「沙耶、三田さんが来たんだから座って」
「い〜や〜」
沙耶の身体を起こそうとするが沙耶は俺の身体を強く抱き離さない。
まじ子供かよ。
「いえ、私のことは気にしないでください。
元はといえばこちらが悪いのですから。
快人様、沙耶様。
先程は本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ。
沙耶も照さんに悪気があった訳では無いのはちゃんとわかってますから。
ただ、まだ気持ちの整理がついていないだけですので」
「ん」
沙耶が俺の言ったことを肯定するように声を上げる。
「ありがとうございます。
娘は落ち着いたと思った途端自分のしでかしたことはことの重大さに気づいたようで沙耶様に嫌われたと大泣きしております」
「それはまた」
自分が悪いにせよ好きな人に嫌われるのは相当しんどいことだから当たり前だ。
「ん、待ってて」
何を思ったのか沙耶が突然立ち上がりトテトテと部屋から出ていった。
「どうしたのでしょう?」
「さあ?」
それから三分程で部屋の扉を開け沙耶が色紙を持って入ってきた。
「三田さんこれを私達が帰ってから照さんに渡してください」
そう言って持ってきた色紙を三田さんに渡す。
色紙には沙耶のサインが書いてあり、照さんの名前と一言メッセージも添えられていた。
「ありがとうございます!」
「いえ、大丈夫ですよ。
モデルも辞めたのにも関わらずまだ好きでいてくれているのはありがたいことですから。
ですが、くれぐれも私達が帰る前に渡さない」
「はい、かしこまりました。
嬉しさのあまりまた何か問題を起こしかねないですからね。
では、私はこれで失礼します」
三田さんは深く頭を下げ部屋から出ていった。
「うがぁー」
三田さんが部屋から出て行くのを見送った途端、沙耶が変な声を出しながら再び俺の膝の上に頭を乗せてくる。
「昼ご飯の時までには完全復活するからそれまではこのまま私を甘やかして」
「仰せのままに」
それで沙耶が満足するのならいいかと思い右手で沙耶の頭を撫でる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます