第127話【札束】

「なぁ、カエデ。

どこに向かってるんだ?」


俺はカエデに行き先を言われないまま半強制的に連れ出され、今は電車に乗っている。


「超有名な美容室だよ。

予約取るのに苦労した〜」


「美容室?

ああ、前のデートの時みたいにいろいろしてくれるってことか?」


「そそ、向こうは浴衣っていう最強の装備をつけて来るんだから生半可な気持ちじゃ太刀打ちできないよ!」


装備て、もっと言い方ないのかよ。


「そうなら、そうと言ってくれよ。

お金そんなに持ってきてないぞ?

まさか、また母さんが出してくれるのか?」


「うん、そうだよ。

前にお兄ちゃんと沙耶さんがお祭りに行く約束したでしょ?」


「したな」


おそらく勉強中に海とお祭りは行くって話した時だと思う。


「沙耶さん、お兄ちゃんとお祭りに行けることがよほど嬉しかったのかすぐに私とお母さんに笑顔で報告してきてね。

それでお母さんもテンション上がっちゃって次の日にすごく血走った目をしたお母さんが札束握りしてめ私の部屋に来てね」


「なんか怖いなその状況」


「本当に怖かったよ。

まあ、それは置いといて、その時にお母さんがその握りしめた札束を私に渡して、「これ使ってあんたの大好きなお兄ちゃんを世界一かっこよくして来なさい!」って言ってきてね。

お母さんの形相が怖すぎてことわれなかったんだよ。それに私の大好きなお兄ちゃんが世界一かっこいいのは元からだけどさらにかっこよくなるならそれは私にとっても嬉しいことだなぁ〜と思って引き受けたんだよ」


カエデのブラコン発言は置いといて札束って。


「何円ぐらい貰ったんだ?」


「ん〜、これぐらい」


そう言ってカエデは右手を開いた。


「五万か?」


前のデートの時と同じ金額だな。

札束って言ってたからもっと高額かと思ったわ。十分、五万でも高額だけどな。


「違うよ。

よく見て」


こいつは何を言ってるんだと思いながらももう一回しっかりとカエデの方を見る。


「お、お前まさか!?」


カエデの右手は開かれていて、その横に握りしめた左手が隣合っていた。


「うん、五十万」


「え!?

お前まじか!?

母さんはマジで馬鹿なのか!?」


俺は驚きのあまりここが電車の中だということを忘れ椅子から立ちあがり叫んでしまった。


どこに高校生の子供のお祭りデートの準備金に五十万だす親がいるんだ!

うちは大富豪じゃないんだぞ!


「お兄ちゃん、ここ電車」


「あ、すみません」


俺の声に反応してこっちを見ている人達に謝り、座り直す。


「マジだよマジ。

ほれ」


そう言ってカエデはポケットから封筒を取り出し俺に渡す。

俺はそれをおずおずと受け取りそっと中身を確認する。


「!?」


軽くしか見てないから五十万あるかわからんがちゃんと一万円札がいっぱい入っていた。

俺はその封筒をそっとカエデに渡し、頭を抱えた。

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