第128話【有名美容室】
「我が妹よ」
「なに?」
「俺達の母親って大丈夫なのかな?」
「今更じゃない?」
カエデさんは既に諦めているらしい。
「まあ、そうか」
「今回はそんなことを気にせずにいこうよ。
このお金でお兄ちゃんがかっこよくなるのは沙耶さんとお母さん、それに私含めて全員が得することなんだからさ」
「そうだな。
母さんとお話するのはお祭りが終わったあとでいいよな。
今回はありがたく使わせてもらおう」
それから数分電車に揺られ、駅から徒歩十分ほどの美容室に着いた。
「さすが人気店!
店の外ですらオシャレだね!!」
「そうだな。
俺なんかが入っていいのだろうか?って考えちゃうよな」
「こっちはお客さんなんだからそんな気を使わなくていいよ。
さ、行こ」
カエデがボーッと突っ立って美容室を眺めている俺の手をとり店内に連れていく。
「いらっしゃいませ。
本日担当させてもらう長瀬といいます。
よろしくお願いします」
男の髪を切るのだから男の人かと思いきや女の人だった。彼女とのデートのために来たのだから女性に頼んだ方が女性受けする髪型になるからいいのかな?
「こちらこそよろしくお願いします」
店に入ると予約していたからかすぐに椅子に座るように促され担当してくれる人に挨拶された。
「それじゃあ切っていきますね」
「え?」
「どうかなされましたか?」
「いや、どうするかとか聞かないのかなぁ?と思いまして」
どんなに安い美容室でも最初にお客の希望を聞くものだと思っていたのですぐに切り始めようとしたことに驚いてしまったのだ。
「ああ、いつもならちゃんと聞きますが今回は既に妹さんから要望は聞いてますから。
それにしても妹さんに凄く好かれているんですね。自分の髪型でもあれだけ真剣に考えている人少ないですよ」
長瀬さんは苦笑気味にそう言う。
カエデのやつ要望言う時に何かしたのかな?
「そうだったんですか。
何か妹がご迷惑をかけたようで申し訳ありません」
「いえいえ、仕事ですので。
それに妹さんとお話するのは楽しかったですよ。
真剣に私の話を聞いて、あなたの写真まで持ってきてここはこんな感じの方がいいですかね?ってね。妹さんの思いに私も全力で応えようと思いましたよ」
「恥ずかしながら、あいつは自他共に認めるブラコンですからね」
「いいじゃないですか。
仲が悪いよりよっぽど」
「そういうものですかね?」
「そういうものですよ。
それでは切っていきますね」
「お願いします」
そうして俺の驚きのせいで止めていた作業が再開され、心地の良いハサミの音と共に俺の髪の毛が地面に落ちていく。
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