第134話【寝顔】

「着いたー!」


まあまあの段数があった階段を登り終えると先程携帯で見ていたのと同じ公園に出た。


「おー!

結構いいところだな」


「さすがカエデちゃんだね。

人もぼちぼちはいるけどお祭り会場より随分と少ないしね」


「そうだな。

とりあえずその辺のベンチに座るか」


「うん!」


「ねぇねぇ、今何時?

あとどのぐらいで始まる?」


ベンチに座ってすぐ沙耶が食い気味に聞いてくる。


「今が六時半だからあと三十分ぐらいだな」


俺は父さんのロ〇ックスの腕時計で時間を確認して沙耶に教える。

このお祭りの花火は19時から20時までの一時間ノーストップで花火が上がるこの付近では一番の花火が綺麗なことで有名になっている。


「あと三十分か〜。

待ち遠しいね」


「大人しく待ちなさい子供みたいだぞ」


「子供で悪うございました〜」


「ごめんごめん。

そう拗ねるなって。

それにしても俺もこんなに楽しみな花火は子供の時以来だ。

隣にいて一緒に見る人が大好きな彼女ってだけでこうも変わるものなんだな」


「そ、そんなあからさまなご機嫌取りに引っかからないんだからね!」


沙耶は腕を組んで頬を膨らましプイっと俺と反対方向を見る。

だけどよく見ると口角が上がっており機嫌はなおっていてこれは照れ隠しであることが伺える。

チョロい、チョロいぞ沙耶!


「でもどうしよっか?

時間が出来ちゃったね」


「いいんじゃないか?

俺は沙耶とこうやってのんびり話するの好きだぞ?」


「私も〜。

ほれほれ」


そう言って沙耶は太もも辺りをトントンと叩く。

おそらく膝枕をしてやるからさっさと頭を乗せろということだと思う。

付き合ってから膝枕は何回かしているので恥ずかしいということは無い。


「今日は勘弁。

せっかくカッコよくセットしてもらったのに崩れる。

逆にたまには俺がやってやろうか?」


次は俺が太ももをトントンと叩く。


「快人の膝枕。

してもらいたいけど私も今日は気合い入れてセットしてもらったから崩したくない」


沙耶は俺の太ももと自分の髪を交互に見て考える。


「なに髪の毛が少し崩れたぐらいで沙耶の可愛さは薄れたりしないさ」


「その言葉そっくりそのまま返すよ」


あらら、返ってきちゃった。


「じゃあ、やめとくか」


「いえ、やめません」


俺がそう言って足を組もうとした途端、沙耶は俺の足を掴み元の状態に戻し頭を乗せた。


「はぁ〜。

やっぱり良いもんですね。

好きな人に膝枕をしてもらうっていうのは」


「そうだろ?

俺がいつも寝てしまうのも無理はないと思わないか?」


俺は沙耶に膝枕をしてもらうとまあまあの確率で寝てしまう。

だって仕方ないだろ!

ちょうどいい柔らかさのハリのある太もも!

何の香りかわからないけどリラックス出来るあの香り!

まるで母親が子供を寝かせつける時に歌うような大事に包み込むような歌声の子守唄!

起きていられる要素がないじゃないか!


「そうですね〜。

ふぁ〜あ」


沙耶の目がとろ〜んとして欠伸をした。


「眠たくなってきたのか?

寝てもいいぞ、花火が始まる少し前に起こしてやるよ。

まあ、子守唄は歌ってやれないけどな」


「はぃ〜。

ありがとうございます〜」


そうして紗耶は目を閉じスゥスゥと眠りに落ちた。


「ほんと沙耶の寝顔って可愛いよな」


俺は役得をあじわいながら花火が始まる時間を待つのだった。

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