第132話【あーん】
「おじちゃん、たこ焼き一つ頂戴!」
お祭りの場所に着いてそうそう沙耶がお腹がすいたと言い出したので近くにあった、たこ焼き屋の屋台に来ていた。
さっきまではしおらしかったのにいきなり花より団子になったな。
「はいよ!
お!
嬢ちゃん可愛いね。
今日は彼氏と一緒か?」
「そうなんです!
うちの彼氏かっこいいでしょ?」
満面の笑みだな。
「まあまあだな。
俺がもうちょっと若ければ嬢ちゃんをナンパしたんだかな!」
「えー。
駄目ですよ。
私は彼一筋ですから」
「はははっ。
本当に彼氏が羨ましいよ。
ほれ、400円だよ。
持ってきな!
ちゃんとおまけしといたぞ!」
沙耶はお金を払いたこ焼きを受け取る。
「おじちゃん、太っ腹!
ありがとう!」
「ありがとうございます」
「はははっ。
いいってことよ!
楽しんでこいよ!」
屋台を離れ近くのベンチに腰掛ける。
「おまけしてもらってよかったな」
「うん?
屋台でのおまけって結構な確率でしてもらえるんじゃないの?」
「そんなわけないだろ。
本気で言ってるのか?」
「うん。
お祭りはいつも美波と来てるけど最低でも一回はおまけしてもらえるよ?」
嘘を言っている感じはないので本当のことなのだろう。
さすが美少女、屋台のおっさんぐらい余裕で篭絡してやんよってか。
「まあ、二人は美人だからな。
おまけしたくなる気持ちもわかるよ」
「えへへっ。
褒められちゃった。
でも、ナンパも絶対に一回はされるんだけどね」
「ナンパは困るな。
今日は俺がしっかり護るから心配しなくていいよ」
「うん、頼りにしてる。
フゥー、フゥー。
ほら、あーん」
自分で食べるために冷ましていたのだろうと思っていたたこ焼きを俺の方に差し出す。
「ん?」
「あーん!」
「あ、あーん」
「どう?
美味しい?」
「美味しいよ。
てか、沙耶が作ったわけじゃないだろ」
「いいの、そんな細かいことは。
こういうのは雰囲気が大切なの」
「そうだな。
沙耶に冷ましてもらったたこ焼きは普段より三割増で美味しいよ」
「な!
何いきなり恥ずかしいこと言ってるのよ!」
どうやら雰囲気を壊したことへの謝罪の気持ちとイタズラ心で言ったセリフは気に入ってもらえたようだ。
まあ、実際に三割増で美味しく感じたのだけどね。
「ほら、貸してみ」
「あ、」
俺は、沙耶が持っていたたこ焼きを取る。
「フーフーフー。
ほら、お返し。
あーん」
「え!?
いや、でも、は、恥ずかしいし?」
「俺にやらせたくせに何言ってんの。
ほら、口開けて。
あーん」
「あーん」
「どう?
美味しい?」
「う、うん。
美味しいです」
沙耶は、小さな声でそう言うと顔を真っ赤にして俯いた。
あら可愛い。
その後は、あーんもせずに大人しくたこ焼きを食べ進めた。
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