第24話 二人の関係

「ごめん! 本当にごめん! エスティ、赦してよ!」



 黄昏色の空に、グラウコーピスの引き攣れた叫びが突き刺さった。



「昼間は寝てて役に立たないんだから、事前にちゃんと説明しておいてよ」



 ふくろうのグラウコーピスは当然夜行性だ。


 基本的に日中は睡眠時間。



「確かにボクが失念してたわけだけど、まさかあいつの女癖がそこまで大っぴらだとは想像してなかったんだよ!」


「なによ、想像って……グラウもいやらしい」


「八つ当たりだよぉ……」



 夕方になり、目を覚ましたグラウコーピスをエストリーゼは容赦なく責め立てた。


 アポロンの部屋での一件は、華の乙女には刺激的過ぎたからだ。



 思い出すだけで怒りと恥ずかしさが込み上げてきて、顔から火を吹き出しそうになる。



「もう、グラウだけが頼りなんだからお願いよ」



 小さな梟を恨めしげに横目で見ると、エストリーゼは女官が置いていったグラスの水を一気に飲み干した。



 冷たい水の感触が喉に溜まった熱を奪っていく。


 一息つくと今度は嵐のように質問を投げかけた。



「もしかしてアテナはアポロンの恋人だったの? それから晩餐会って何? この腕輪を外す方法はあるの?」


「エ、エスティ。動揺してるのはわかるけど、ひとつずつ答えていくから焦らないで……」



 グラウコーピスは目を白黒させた。



 エストリーゼは家族や村を思う心優しい少女だ。


 しかし異性に関してはどうもまったく免疫がないらしい。


 今回の事件ではグラウコーピスも驚いてしまうほどに取り乱していた。



 深い溜息をつくと。


 グラウコーピスはエストリーゼの質問に一つずつ答えていった。



「まず一つ目、アテナとアポロンの関係だけど……。それは何かの冗談だろう。エスティはアポロンにからかわれただけだと思うよ。そりゃあ、ボクだってアテナの心まで知ってたわけじゃないけどね」



 ずっと戦争に従事していたアテナ。


 そんな彼女が、剣のかわりに竪琴を奏で女にうつつを抜かしているだけの怠惰な兄アポロンに、軽蔑こそすれ恋心を抱くなどあり得ないというのがグラウコーピスの意見だ。



 確かにアレスという大男もそう一喝していた。


 しかも軍神である自分の方がアテナには相応しいとまで言ってのけた。



 それに、三年前アテナと湖で会った時も、彼女はアポロンのことを「悪魔だ」と言っていたと記憶する。


 ならば恋人などではないはず。



 エストリーゼはとりあえず納得することにした。


 どうやら自分は、アポロンにとってからかい甲斐のある対象らしい。



 腹は立ったが、なんとなく理解できる。


 きっと人間など神々にとっては玩具おもちゃ程度の存在なのだろう。


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