第五章 アポロンをその気にさせるには
第26話 竪琴の音と
細く沸き上がる神水は、柔らかな陽射しと共にワルツを踊る。
飛び散る水滴がプリズムの役を得て、小さな虹を生んだ。
七色の線は淡く透けていて、庭園に咲き乱れる花々の色をもその姿に優しく取り込む。
そして、幾重にも重なるように噴水の周りを彩っていた。
*****
めでたし乙女よ、あなたは恩恵に満ちたお方
その腕に優しく抱き、束の間の夢を約束される
空を往く鳥たちのように魂に自由を与える乙女
罪人なる我らのために祈りたまえ
今も、わたしたちの命が尽きるその時も
*****
ポロン、ポロン。
いつの間にか。
エストリーゼの歌声に竪琴の音が寄り添っていた。
柔らかく慎ましく。
決してその弦音を誇示することなく。
ただそこに風が靡くように。
自然のままに。
歌の途中で、エストリーゼはハッと振り返った。
太陽の光より眩しい姿が目に染みる。
彼女の瞳に映る白銀髪の男は、至極無念そうな声をあげた。
「あぁ、やめないで。せっかくカナリアが歌い出したというのに、私は残念で死んでしまいそうだよ」
繊細な金の刺繍を施された真っ白な貫頭衣に身を包んだ男は両腕を広げ、エストリーゼに続けるよう促している。
「そんなことであなたが死ぬなんて――」
「いやいや、君の歌声はなかなかのものだよ。実際、あの日の舞台を私はとても残念に思っているんだ。ティターンの眷属などに邪魔されなければもう少し演奏が続けられたというのに」
本気で肩を落とすアポロンに呆れてしまった。
と同時に、素直に嬉しさが込み上げてくる。
思いがけない音楽の神による賞賛は、エストリーゼにとっても感涙の極みだ。
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