第89話 三者三様

 それでもアフロディーテをなんとか思い止まらせようとするエストリーゼへ、涼しい声がかけられる。



「私はここに銀の鍵を持っている。そしてアフロディーテは銅の鍵を持っている。それにはね、ちゃんと合理的でかつ効率的な理由があるのだよ。だから君は、私たちの心配をする必要はない。自分のことだけに集中すればいいのだよ?」



 アポロンは己の手に銀の鍵を掲げ、悩ましい顔をした。


 が、よく分からないという顔をするエストリーゼに、グラウコーピスが補足する。



「エスティ、つまりこういうことだよ。ヘカトンケイル三兄弟だって性格はみんな同じじゃない。三者三様の趣味があるんだ。だから、それぞれにふさわしい者が相手をすれば、効率よく彼らを攻略できる」



 確かに兄弟だからといって趣味趣向が同じとは限らない。


 相手を知り、それぞれに適切な対応をした方が効率が良いに決まっている。



「まぁ、そういうことですから、エストリーゼは心配なさらないでくださいませ。上手くやってみせますわ。でも……わたくしが相手をするのがロリコン美少女趣味の怪物というのは、なんだか納得できませんけどね!」



 アフロディーテは微妙な不服を訴えて、表情を曇らせた。



 エストリーゼは改めてアフロディーテの姿を眺めてみた。


 妖精のように美しく可愛らしく、そして少しだけ幼さを残したその魅力は、金髪を黒髪に変えた今でも十分健在だ。



 そうすると、もうひとりの相手が気になった。



 視線をアポロンへ向けると、エストリーゼは首を傾げてみせる。


 彼の相手となるコットスとは、どんな趣味の持ち主なのだろうか。



「エ、エスティ! 訊くのはやめておいたほうがいいぞっ」


「そうですわ。お兄様のお相手についてはお訊きにならない方が無難です。お耳汚しにしかなりませんわよ」



 二人の意味深な言葉に、流石のエストリーゼも察しがついて苦笑する。



「私は別にかまわないんだけどねぇ」



 アポロンは肩を竦め、楽しそうな声を漏らす。


 そして黄金の瞳に、会心の笑みを浮かべた。


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