第70話 大地の女神ガイア

 大きくもなく。


 かといって小さくもない女性の姿。



 その顔にエストリーゼはハッとする。


 ガイアという存在を知り、自分が頭に思い描いた人物そのままの顔立ちがそこにはあった。



 輪郭がはっきりしてくるにつれて、女性の容姿はエストリーゼの心臓をさらに締め上げた。



 ――似ている。



 自分の母親と寸分違わぬ姿。


 あの日、メッシーナ劇場へ向かう日の朝、優しく自分を送り出してくれた……。



「そんな……」



 エストリーゼの眼底がぐっと熱を帯びた。


 死んだ母がこんな場所にいるはずはないと頭では理解しているのに。



「ふん。わらわに年増女としまおんなの姿を想像したのか。どうせあのくそ生意気な愛と美の女神が、わらわのことを『モグラのオバさん』とでも呼んだからであろう。わずらわしい女神じゃ」



 ガイアは不平不満を口にした。



「わらわは実体を持たぬ混沌カオス思念体しねんたい。そなたが頭で想像した姿を具現化しておるだけじゃ。さすれば思い通りの姿が目前にあろうとも、驚くべきではなかろうて」



 再度、ガイアは今の姿が気に入らないといった物言いをした。


 母親と同じ容貌は、エストリーゼの心を激しく揺さぶる。



 しかし当然、ガイアが発する言葉からは母親の愛情など欠片すら見いだせるわけはない。


 さらにガイアの頭部に飾られている七色の冠が、なぜか酷くその事実を訴えてくる。



 火・水・風・土・光・闇、そして——無。



 七つの要素を表す冠は、人間がつかさどるなど到底不可能な代物である真実を絶対的に主張していた。



 間違えるな。


 目の前の女性は母親ではない。



 エストリーゼは頭を軽く振り、沸き上がる想いをその身から引き剥がした。


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