第十三章 混沌の予言のままに

第69話 地底の神殿

 生暖かい風が頬を叩く。


 海を突き抜け地球の中心へと進んでいく。



 真っ暗なその空間は、混沌カオスが支配する世界。


 だが冷たい闇とは違う。



 慈愛と共にどこか懐かしさを含んでいる。


 まるで羊水のよう。



 徐々に大きくなる規則正しい打音は、大地の鳴動。



 ――すなわち、星の鼓動。



 音質は低く柔らかく、己の心臓と呼応する。


 打ち寄せる波のように力強く、退く波のようにわずかな余韻を残す。




 すでに天地は分からなくなっていた。


 自分が上へ進んでいるのか下へ落ちているのか、いつからここを彷徨さまよっているのか。



 時間の感覚さえも。



 けれど、永遠に続くかと思われた暗闇に、ボウッと鈍い光が見えてきた。


 ホッと安堵の息をつく。



 光を見ると心が落ち着くのは、生きとし生けるもの共通の性質なのだろうか。


 やがて広い空間に辿り着いたエストリーゼは、不安定な重力の中でも地面だと感じる場所へと足を下ろした。



 広い。



 空洞を照らすのは、足元を含む壁一面が発するほのかな光だ。


 目をらすと、こけの間に円柱のようなものが見える。



 かなり苔に覆われてしまって定かではないが、アポロンやゼウスの神殿でみた大きな柱と同等もののようだ。


 よく見れば、巨大な石像も埋もれている。



 古びて蘚類しだるいに覆われていても神々しいと感じるのは、それらが神をかたどっているからだろうか。



「よく来た。そう、ここは神殿。混沌と共に在る、ガイアの神殿じゃ」



 空洞を充満するぼやけた光から。


 滲み出るかのように人影が現れた。


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