第57話 アポロンの贖罪

「ああ、悪かったね。私を捜していたのだろう?」



 金の竪琴をすっと手元から消し去ると、アポロンは緩慢かんまんな仕草で髪を払った。



「……どうしたんだ!? その髪は!」



 グラウコーピスが驚きの声をあげるのも無理はなかった。


 アポロンの見事な白銀髪は、艶やかな黒髪へと色を変えていたのだから。



「イメージチェンジというものだよ。どうだろう? お気に召してはもらえないかな?」



 アポロンは額にかかる黒髪を掻き上げると、涼しげな表情を返した。


 瞳の色は変わらぬ黄金だが、湛える光が静謐せいひつすぎる。



 以前はもっと憎らしいほど派手に輝いていたはずだ。


 グラウコーピスは狼狽うろたえながらも、彼の言葉と異変に思考を巡らせる。



(もしかして……ボクはこいつのことをずっと誤解していたのだろうか?)



 グラウコーピスの動揺を知ってか知らずか、アポロンは淡々と呟く。



「……私には、申し開きなどできはしない。あれは、完全に私の誤算だった」



 アポロンの決して口にしないはずの言葉が。


 グラウコーピスの戸惑いを肯定へと傾けていく。



(まさか……ものすごく高慢で、放埒で、自信過剰なこいつが、「後悔してる」とか「懺悔ざんげする」とか言い出すわけはないよな……)



 けれどグラウコーピスの予想は大きく裏切られる。



「グラウコーピス。私はね、心から悔いているんだ」



 あまりの驚愕に、ふくろうの丸目は飛び出るほどに大きく見開かれた。



「それにね、償わなくてはいけないと思っているんだよ。おかしいだろう? この私が。誰よりも矜持きょうじの高いこの私がだよ?」



 アポロンは両手をあげグラウコーピスと視線を合わせる。


 と、軽く自嘲気味な笑みを浮かべた。



 彼の異変に、堪らずグラウコーピスは大声をあげる。



「どうしたんだよ!! お前らしくないぞ!」


「……私らしい、ね? 私らしいとはいったい何だろう?」



 グラウコーピスは言いしれぬ不安に駆り立てられた。


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