第94話 アテナのために
グラウコーピスは畳み掛けるように言葉を放つ。
「アテナは継承者にこの人間の少女を選んだ。神々からみれば虫けらに等しい取るに足らない人間を――。君の賛辞の通り、アテナはどの神からも敬愛される素晴らしい女神だった。だが彼女が選んだのは、何の力も持たないただの人間だ。ブリアレオス、君ならばアテナのその心をどう解釈する?」
まさか自分が何かを問われる役に回るとは想像していなかったのだろう。
ブリアレオスは、激しく動揺を示した。
醜い姿
そんな不幸な彼らでさえ永遠の命を与えられている。
その人間を崇高な女神アテナが継承者に選んだという事実は、ブリアレオスをことのほか愉快にしたようだ。
しかし鋭い彼は、グラウコーピスの
赤い縦長の瞳孔を、嘲るように一段と細めて言い放つ。
「読めたぞ、賢者グラウコーピス! おまえ達はこの俺にクロノスを討つ助力を求めるのだな! 敬愛するアテナの
しかし既に軍配はグラウコーピスにあがっていたようだ。
ブリアレオスの声は陽気なまでに高音になっている。
「ご名答。だけど少しだけ違う。ボクたちが助力を求めるのはブリアレオス、君だけじゃない。ヘカトンケイル三兄弟にだ」
闇から全ての気配が消えた。
あたかも初めからそこには何もなかったかのように。
しかし、やがて――。
「……ふ、ふはははは!」
清々しいまでに甲高い笑声が空間を揺らす。
それと共に、エストリーゼの身体はようやく百手から解放された。
すぐに体中にできた傷は女神の力で塞がっていく。
ブリアレオスは念波を発してなにやら確認すると、口の端をぐっと持ち上げた。
「なるほど。太陽の神と、愛と美の女神か。――喜べ、すでに兄弟達は心を決めたようだぞ。
エストリーゼはすっと立ち上がると、堂々とブリアレオスに向き直った。
「わたしは
「な、なんだと!?」
五十の頭が一斉に呼吸を止めた。
まるでその空間から
無機質がその場を支配する。
だがその空気を打ち破ったのは、意外にもエストリーゼの笑顔だった。
「見せてあげたいわ。あなたに本物の蒼穹と、そして世界を――」
きっと彼女もそう願っている。
異形とはいえ、愛する息子達を解放したいと。
大地の女神ガイア。
あなたも――。
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