第19話 女神アテナを殺したのは誰?

「ねぇ、グラウ。なぜアテナは死んでしまったの? 神様って不死なんでしょう?」



 軽々しく訊いていいとは思わなかった。


 けれど、直感的にとても重要な事柄に思えてならないのだ。



 案の定。


 その問いに、グラウコーピスは沈痛な心を震わせた。



 アテナを死に追いやった傷を、恐らく誰よりも近くで感じていた者はこのふくろうだったのだろう。



「神々はを受けると、その命を絶たれるんだ。――たぶん彼女はそれを受けたんだろう」


「神の……やいば……」


「神の刃といっても何も特別なものじゃない。神を殺せるのは神というだけだよ」



 さらりとグラウコーピスは受け流す。



「だから、追い詰めてトドメを刺すその時までは、敵対する神々は極力対峙を避ける。百一回目の戦争で、アテナはクロノス軍と戦っていた。戦況はアテナ軍が優勢で、彼女はクロノスを追ってはがねの砦まで行き着いた。そこまではボクも彼女の傍にいたから覚えてる。でも、ボクはアテナがその刃を受ける前に卵へ還された。危険を察して、咄嗟に彼女はボクを殻へ閉じ込めたんだろう。だから、悔しいけどその瞬間を見てはいないんだ」



 グラウコーピスが後悔の念に襲われているのは明白だった。


 何かが彼を強く苛んでいる。



 エストリーゼにとってグラウコーピスは大切な友達だ。


 いつも明るく優しい彼が、こんな風に苦しむ姿を見るのは辛い。



 疑問は多々あるが。


 全てを聞いたところで自分自身がすぐに消化できるわけでもない。



 今日のところはこのあたりで話を打ち切ることにした。



「明日もう一度アポロンと話してみる。心配しないで。今日みたいな失敗はしないから」



 小さな梟は彼女の肩へと羽ばたくと、応援するようにからだを擦り寄せた。


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