第18話 アポロンの責務

 神膜の形成も維持も、並大抵の神などにできる行為ではない。



 次元を分かつ膨大にして長大な境界の創造など。


 それこそオリュンポス神族などではなく、ティターン神族のような古き巨神族の力がなくてば叶わない。



 そう、グラウコーピスは賢者ならではの意見を付け加えた。



「でも、わたしは確かにアポロンに救われた……それに、あの巨人はわたしを狙っていたんだと思う……」



 今思い返しても。


 土気色の皮膚、深碧色の血を流す巨人キュクロプス。


 頭の中央を占める大きな一つ目は常にエストリーゼを狙っていた。



 そしてアポロンは最終的には彼女の命を守った。



「それは当然! アポロンが君を助けるのは本来ならば責務なんだ! エスティはアテナの継承者なんだよ! 君がいなければティターンとの戦争に勝てない。もしあの場で君がキュクロプスに殺されたり攫われたりしていたら、彼はその責任を負うことになる」


「攫われるって……いったい誰に?」


「ティターン神族に!」



 意味が分からずエストリーゼは首を傾げる。



 ここでやっと少しだけ実感した。


 自分は何も知らないのだ。



 神々に関して何の知識も持ち合わせてはいないのだと。



「でも、なぜそのティターン神族は、三年も経った今になってわたしを襲ったの?」



 エストリーゼが女神アテナと出会ったのは三年前のことだ。


 今さら狙われるのもおかしいと感じる。



「アテナが最後の力を振り絞って会いに行った相手はアポロンだった。継承者である君の情報を握っていたのは、彼だけだったんだよ。だから奴らは、彼の動きに常に注意を払っていたんだろうね。そしてアポロンがやっと重い腰を上げたのを見て奴らも動き出した。アポロンは目立つからね、どうせすぐに見つかったんだろう。ただでさえ派手すぎる容姿なのに、素行も大胆なんだから」



 エストリーゼは、メッシーナ劇場の舞台に登場してきたアポロンの様子を思い出した。



「確かに……」



 呆れた表情のままエストリーゼは暫く沈黙した。


 その頭にじわりと疑問が浮かび上がる。



 例えようのない違和感。


 何かが酷く矛盾してると感じてしまう。



 少しの間逡巡したあと、エストリーゼは重い口を開いた。


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