第63話 敬愛の証
犯した罪が重すぎて。
その罪と下された罰を誰かに告白したかったのだ。
神の前で跪き懺悔することで、少しでも救われたいと。
自分の心を浅ましいと理解しつつもそうせずにはいられなかった。
そんなエストリーゼの傍を一羽の小鳥が羽ばたいた。
小鳥は上空を一周すると、目前に現れた幻影、プロメテウスの腕に留まった。
彼が口づけると、小鳥は
――グラウ?
プロメテウスは、アテナへ敬愛の証として賢者を贈った。
アテナは喜びに頬を染め、笑顔でその梟をこう呼んだ。
グラウコーピス、と。
突然、エストリーゼは暗闇に包まれた。
暫くして目が慣れてくると、そこは煌めく星に照らされた泉のほとりだと知れた。
美しい青年が竪琴を手に、優しい旋律を奏でている。
一羽の梟がその音色に惹かれ飛んで行き、青年の肩へと留まった。
しかし青年は梟に気を取られることなく竪琴を思うままに弾き続けている。
その梟を追って、木々の間を鎧に身を包んだアテナが近づいていく。
けれど、彼女が青年の前に姿を現すことはなかった。
泉の手前で足を止め、木陰に身を隠してしまったのだ。
翠緑の双眸を閉じ、その場で竪琴の音色に酔いしれる。
やがてその目からは涙が生まれ、止めどなく流れ落ちた。
痛い。
アテナの心がエストリーゼに突き刺さる。
アテナは自分の姿を恥じていた。
戦に身を投じ、鎧に包まれた血生臭いその姿を、竪琴を優雅に奏でる青年に見られたくないと思ったのだ。
文武両道、頭脳明晰、どの神からも慕われる戦の女神。
しかし彼女は、心では戦争を望んではいなかった。
だが己に掛けられたゼウスの期待と、戦の女神として生まれついた運命に抗うなどできはしない。
アテナは青年に
自分は定められた運命のまま戦場へ赴くだろう。
けれど――彼には戦ではなく竪琴を弾いていて欲しい。
そして、叶うことなら彼の竪琴をずっと聴いていたい。
そう願わずにはいられなかった。
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