終章 神々へ贈る鎮魂歌《レクイエム》
第119話 タルタロスの看守
ここはやはり変わらない。
これからもずっと変わることはないのだろう。
闇が支配し毒の霧が立ちこめる、今でも神々が忌み嫌う淀んだ空間。
その土地自体が際限なく魔物を産み落とす呪われた場所。
そう、タルタロス――。
だが今は。
「おおおっ、やっぱりきてくれたんだな!」
その不吉な土地には到底似合わない明るい声が響いた。
エストリーゼとアフロディーテを出迎えてくれたのは、五十の頭と百の腕を持つヘカトンケイル。
「お久しぶりでございますわ、ブリアレオス。お元気そうでなによりです」
「うへぇ。お前ってやっぱり綺麗だったんだな! いや、前の黒髪の時だって十分美人だったけどよ、今の見事な金髪はその空色の瞳にぴったりだ!」
本来の美しい金髪に戻ったアフロディーテの姿を、ブリアレオスは手放しで賞賛した。
その意見にエストリーゼも大きく賛同を示すと、アフロディーテは真っ赤になった。
「ごめんなさい、ブリアレオス。わたしはあなた達にどう謝罪したらいいのか分からないわ。約束したのに。本物の蒼穹を見せてあげるって。世界を見せてあげるって。なのに――」
故に、ゼウスは彼らの素晴らしい働きに報償を与えた。
『おまえ達の働きにより、わしはクロノスを討ち、ティターン神族はタルタロスへ幽閉された。だが、奴らは隙あらば脱獄しようと企んでおる。そこでおまえ達にわしの目となり腕となり、奴らを見張っていて欲しい。よっておまえ達三兄弟をタルタロスの看守に任命する』
ゼウスは巧みに言葉を選んだ。
何千年と幽閉されてきた呪われた土地に、今度は囚人ではなくゼウスより認められた者として降りて行けと命じたのだ。
当然、その処遇に満足するわけはない。
コットスとギュゲスは大いに怒り狂った。
だが結局、ヘカトンケイル三兄弟はその理不尽な命令を甘受した。
彼ら二人を
「おまえが謝る必要なない。俺が決めたことだ。それに賢者グラウコーピスがついた嘘についても怒っちゃいねぇ」
ブリアレオスは至って潔く笑う。
グラウコーピスは金の扉の中でブリアレオスを
アテナを敬愛するその心を利用し彼を味方につけるため、アテナを殺した犯人はクロノスだと堂々と偽ったのだ。
だが、グラウコーピスが用いた策略は的確に功を奏したと言える。
あの時、アテナ殺害の犯人はゼウスだと告げていたならば、ブリアレオスは味方にはつかなかっただろう。
「まあああ、あなたって心が広くて本当に素敵なお方なんですわね。小心者のゼウスに爪の垢でも飲ませてやりたくらいですわ!」
アフロディーテのその言葉に、ブリアレオスは不適な笑いを返す。
「そりゃぁ、上手く幽閉したとはいえ、ティターン神族はゼウス政権にとって最大の脅威には変わりねぇ。その監視役を任されたってことは、絶大な信頼を賜った証と俺は受け止めている。だがな、俺はそんなものに満足したわけじゃねぇ」
そこまで言って、ブリアレオスはエストリーゼに向き直った。
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