第121話 アテナ神殿

 神膜しんまくが修復され、再び人間の次元と分かたれた神の次元は、ゆっくりと、だが確実に本来の姿に戻っていった。



 アポロン以外の神々の神殿はオリュンポス山にそれぞれの神殿が配置されている。


 その一画に佇むアテナ神殿はこじんまりとした神殿だった。



 外観はドリア式の厳かな造りだが、内装はグラウコーピスの指示で、洗練されたアポロン神殿を手本に大きく改装されていた。



 音響の良い部屋と優雅に備え付けられたクラヴィーア。


 いつも美しい花を咲かせるコンサバトリー。



 自分にはもったいないと訴えるほどに、どれもエストリーゼは気に入った。


 寝室にはレンガと青いタイルを見事に融合させた美しい暖炉が設置されていた。



 常時暖かい気候のオリュンポスでは、永遠に火が入れられることはないだろう。


 故にこの暖炉は装飾品以外の何物でもない。



 けれどそれがあるだけで、彼女の生まれた世界には季節があったという記憶を思い出させてくれる。


 手に持つ一枚の絵を眺め、エストリーゼはそっと暖炉の上へと飾った。



 故郷、ドリピス村の教会から拾ってきたもので、静かな田園風景が描かれていた。



 かつて自分が人であったことを忘れないように。


 大切な人達が、いつまでも心に居てくれるように。


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