第50話 神を騙る悪魔
冷たいものが頬を打つのに促され。
エストリーゼは両目を開いた。
辺りは暗く、空気はひどく淀んでいる。
暫くはそのままボンヤリと暗がりを眺めていた。
が、やがて
石造りの天井から、水滴がまた一雫落ちてくる。
頬にかかった水滴は海水の匂いを含んでいた。
涙は流れなかった。
あの悪夢のような出来事を——。
まだ現実として受け止めることができないからなのだろうか。
いや、夢だと信じる術すらも。
その身は忘れてしまったからなのだろう。
悲しみを超越した感情は、彼女の身体のみならず心からも涙を奪っていた。
家族や故郷のみんなを殺された怒りと共に、もっと激しく彼女を打ちのめしたのは。
他ならぬ彼の「裏切り」だ。
最初から最後まで、彼はエストリーゼの願いなど叶えるつもりはなかったのだ。
自分の言葉に振り回される人間の滑稽な姿を見て楽しんでいただけ。
ティターン神族が残した毒に当てられ、死んでいく人間たちをただただ眺め楽しんでいた。
それこそつまらない娯楽の一つだとでもいうように。
ほんの少し時間が経てば、そんな遊びをした事実すらも忘れ果ててしまう。
取るに足らない退屈しのぎ。
悪魔だ。
――あの男は神を
耳元で甘い誘惑を
小さな光を見せておいて、群がる虫を一網打尽にして快楽を得る。
今頃は美しい神殿で優雅に
この喜劇の余韻に、さぞかし心を躍らせているのだろう。
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