第十七章 百手巨人《ヘカトンケイル》

第91話 涙の日

  涙の日


  それは罪ある者が、灰の中からよみがえる日


  ただひとつ、裁きを受けるためだけに


  慈悲深き神よ、どうかこの者をお赦しください


  そして彼らに永遠の安息を




 *****




 ちりり、ちりり。


 乾いた音がそこここに。



 この身は、既に土となり。


 心は、既に砂となり。



 百の眼が見る蒼穹は幻で。


 百の腕が触れる水は夢と消える。



 ――誰かの想いが、泣いている。



 ちりり、ちりり。


 大地をしたうは、この心。



 天空を恨むは、この呪わしき……腕、腕、腕。



 正気をむしり取る、それは闇。


 狂気を呼び込む、それも闇。



 ――誰かの心が、泣いている。




 *****



 身体にまとわりつく闇は、しかし乾いて落ちていく。


 粉塵のような無常の闇。



 僅かな風が頬をなぞり、小さな灯りが闇を分かつ。


 ふわりと浮いた白い塊が、少しずつ人の顔へと輪郭を成していく。



 ゆっくりと開く双眸には、縦に線を成す赤い瞳孔が揺らめいた。


 異様に紅い唇からは白い牙が覗いている。



 暗闇に慣れてきたエストリーゼの目は、その顔の後ろに並ぶ他の頭を捉えていた。


 五十の頭はひしめき合うように、上へ上へと伸びている。



 何かが身に纏うトーガをかすめ、エストリーゼの左右を囲む。


 と、そのまま背後を埋め尽くした。



 内臓まで押しつぶされそうな圧迫感を覚える。


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