第105話 二度目の死

 完全なる死を覚悟したその時。



 遥か上空から小さな鋭光が走った。


 太陽光と重なり飛来するそれは、エストリーゼの頬を掠め後方へと飛んでいく。



 刹那。



 雷鳴のような引きれた叫びがとどろいた。



「ぐぅおおぉぉぉっ!」



 天地を揺るがす鴻大こうだいな咆哮は、次元すらも易々と超え。


 世界を、星を、震撼しんかんさせた。



「同じ手で二度もを殺そうだなんて、ずうずうしいにも程がある。少し調子に乗りすぎだ。そんなこと、今度こそこの私が赦さない」



 圧倒的な雄叫びに戦慄わななく空間の中で。


 しかしその場に似合わない涼やかな声が、一筋のピンと張られた糸のように鋭く響いた。



 エストリーゼの前方に忽然こつぜんと現れた優美な男は、艶やかな黒髪を靡かせ冷笑を浮かべている。



「まったく滑稽こっけいだ。天空神のひとりとさえ賞賛されるあなたが、このような小心者だったと誰が知るのだろうか?」



 黄金の瞳をすがめ、虫けらを見下ろす視線で続ける。



「ふん、私はすべてを知っている」



 まるで汚いものを吐き捨てるような口調で。



「ガイアの予言を恐れたあなたは、クロノス討伐より、未来の禍根かこんを断つことを優先した。そして知略戦術共に優れたアテナを恐れ、放蕩息子ほうとうむすこの私などではなく、彼女を殺そうと心を決めた。百一回目の戦争で、まさに今この時と同様の手口で卑怯にもだまし討ち、その罪をクロノスにきせようとした。あなたはクロノスよりずっと弱くてもろい。そして愚かで浅慮せんりょで――。あぁ、なんてことだろう! あまりに酷すぎて形容する言葉が底をついてしまう!」



「ぐぅぅっ、アポロン……。道楽息子だと思って生かしておいてやったが、ずっとわしをたばかっておったのか! その黄金の光彩メランムを巧みに隠しておったのだな! そうと知っておればおまえなど、とうの昔にほうむってやったものを!」



 歯の間から絞り出された軋むような声音に、エストリーゼは聞き覚えがあった。



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