第45話 確かに感じる負の気配

 ――タルタロス。



 薄暗い闇が支配し毒の霧が立ちこめる——神々ですら忌み嫌う淀んだ空間。


 苛烈な暴風が吹き荒れ、穢れた魔物が蹂躙じゅうりんする——呪われた土地。



 百戦百敗のティターン神族は、徐々にタルタロスの地へ追い詰められつつあった。



 現王であるクロノスが倒れ、王権がゼウスへと移れば。


 このままティターン族はこの地へ完全に幽閉されるだろう。



 そんな呪われた丘が。


 ほころんだ神膜しんまくを突き破り人間の次元へと姿を現してしまった。



 このままさらに同期シンクロが進めば、魔物が世界を襲い、いにしえの悲劇が再び人の生を悪戯に弄ぶだろう。


 突如として出現した不吉な姿に、エストリーゼは容赦ない焦燥感を掻き立てられていた。



 ゥオォオォォォーーーン。



 耳には不快な狼の遠吠えがこびりついて離れない。



「早く行かなきゃ、グラウ!」



 彼女の切迫した言葉に呼応するように。


 二人を包む障壁は速度を上げて目的地へと進んでいく。



 ――なんだろう。



 早く行きたいのに。


 それを否定する心がある。



 アテナ継承の感性なのだろうか。


 それが盛んに「危険だ」と伝えてくる。



 ただただ、怖い。



 胸を突き破るかのように激しく鳴らされる警鐘は、苦しいほどの非常事態を告げてくる。


 ドリピス村に降り立った二人は、村全体を包む濃密な闇に足をすくませた。



 静かすぎる。



 けれど、確かに感じる負の気配。


 村で一番大きな建物である教会は禍々しい気に包まれ、怒りに燃え盛っているようだ。



「グラウ、教会の中で何かが起こってる。とても良くない何かが……アポロンは――」


「ボクが先に行ってくる! エスティはここで待っていて」



 打ち震えるエストリーゼを残して、小さなふくろうは教会へと飛んでいった。


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