第35話 ゼウスの問い
ひと口飲んだ
グラウコーピスの話によると、神々は人間のように生きるために食事を必要とするわけではないらしい。
つまり、飲食すらも娯楽に近い位置づけなのだそうだ。
他の面々は、ゼウスに対してエストリーゼほど畏怖してはいないようだった。
食事がはじまった途端、それぞれに会話が弾んでいる。
しかし注意して聞いてみると、話す口調は血のつながりを感じさせぬほどに他人めいていた。
神々の中でも全能神であるゼウスの前なのだから当然といえば当然なのかもしれないが、エストリーゼは妙な違和感を覚えた。
やはり彼らも、家族とはいえどこかでゼウスを畏怖しているのだろうか。
神々にとっての親子の定義は、人間のそれとは全く違うのかもしれない。
兄弟姉妹や親子でも愛し合って婚姻したり、時には殺し合うのが公然たる事実だからだ。
クロノスとゼウス、まさに彼らの関係だってそうだ。
暫くすると、ゼウスの声が部屋中に響いた。
「あれほど優勢だったというのに、我が軍はアテナを亡くした途端、総崩れであったな! 数年と保たずにこうして初の敗戦が決定した。どうだアレス、猛進するばかりでは巨神族ティターンには勝てぬとやっと分かったであろう」
敗戦を悔しがる口調ではなかった。
本心から愉快だとでも言うように、全能神ゼウスは大声で笑った。
そこへアレスが不満口を挟む。
ゼウスに勝るとも劣らない大声量で。
「ゼウスよ。確かに俺のやり方は少々荒っぽかったかもしれん。が、アテナが生きていたら勝てたとは限らんぞ」
その口調も横柄極まりない。
そこへ、
「あら、アレス。軍神と言っても狂乱と破壊の神など、野蛮で無能なだけですわよ。アテナお姉様のように栄誉や計略を象徴するお方こそ、真に戦の神と言うものですわ」
アテナを慕うアフロディーテは、優雅に食事を楽しみながらもアレスをきつく諫言した。
「だがアフロディーテ、おまえにとってもこの敗戦が刺激的だったのは事実であろう? これを機に覇気を取り戻せば、次の戦争は退屈なものではなくなるぞ。それもこれもアレスがもたらした負け戦の余沢と思えば感謝こそできようぞ!」
轟く声で笑うゼウスに、アフロディーテは可愛らしく頬を膨らました。
全能神に同意するかのように他の神々の笑声も混ざる。
「今は
おおおっ、とゼウスの言葉に興奮した声が沸き立った。
そしてその波が収まると、ゼウスの目は真っ直ぐにエストリーゼを捉えた。
青い青い目に射竦められ。
エストリーゼは指一本も動かせない。
小さく怯えた人間を心底嘲るようにゼウスは口をくっと歪ませ、そのまま言葉を続けた。
「アテナ継承者よ、その前に神膜を修復するか? あるいは――クロノスを倒し、この永きに亘る戦争を終わらせてみるか?」
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