第七章 ドリピス村へ

第38話 夜間飛行

 グラウコーピスを含む三人は、夜空を飛んでいた。


 正確にはアポロンが作った丸い大きな障壁の中にいて、それがそのまま高速で移動してる形だ。



 お陰で未だ人間のエストリーゼも、気圧の変化や風の冷たさを感じなくてすむ。


 思えば、アポロンの空中神殿も庭園に花が咲き乱れ、生物が生息できる環境だった。



 神の力が調整しているのか、それとも神の世界がそうであるのか。


 今のエストリーゼには何も理解できない。



 荘厳なゼウスの神殿を出発し、神膜の綻びを抜け、人間の世界へと次元を移していく。



 エストリーゼの故郷。


 ドリピス村を目指して粛々と進んでいる。



 エストリーゼは不安と期待に胸を高鳴らせながらも、さきほど襲われた恐怖に身を震えさせていた。



 抗えば抗うほどに絡みついてくる眩惑と畏怖の念。


 今もその残り香に、エストリーゼの意識は捕らえられてしまっている。



「ゼウスの光彩メランムは、今のエスティには毒になる。人間には強すぎる威光なんだ。今度から十分に気をつけた方がいいと思うよ。早く教えておけばよかったね。ごめん。最近、ボクは謝ってばかりだ」



 エストリーゼの様子から察しがついたのか、グラウコーピスが謝罪した。



 神々の中でも王権を手にする資格のある者は、多大な眩惑と畏怖の光彩メランムを放つ。


 その大きさは放つ者の力や存在意義に比例し、次の王権を担う者ほど強いとされている。



 ゼウスは次に王者となる神だ。


 故に、彼が放つ光彩メランムは凄まじい。



 光彩メランムを放つことで、頂点に立つ神は生きとし生けるもの全ての精神の掌握を可能とする。


 それは神々に対しても同様に影響を与え、特に神族以外の生物には絶大な威力を発揮する。



 まだ継承が完了していない人間であるエストリーゼは、当然その対象に入った。



「わ、わたし……クロノスという神を殺すの?」



 エストリーゼが辛うじて発した声は、悲しいほど震えていた。


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