第32話 梟と女神の再会

 ふくろうと、愛と美の女神は抱き合っていた。



「グラウコーピス! あぁ、ご無事で良かったですわ!」


「アフロディーテ! ボクもまた君に会えて嬉しいよ。それに相変わらずの美貌だ!」



 アフロディーテの胸に潰されそうになりながらも、二人はお互いに再会を喜んでいた。


 どうやら旧知の仲のようだ。



「エスティ、おめでとう! 本当にあいつに腕輪を外させたなんて驚きだよ。正直ちょっと心配してたんだ」



 夕方になって目覚めたグラウコーピスに、エストリーゼは事の次第を話して聞かせた。


 当初の作戦は失敗に終わったが、結果的には、あの傲慢なアポロン自らに金の腕輪を外させることに成功したのだ。



 グラウコーピスにしてみれば、奇跡としか言いようがなかっただろう。



「それは、継承が進んでるってことなんだと思う……」



 エストリーゼが自分の意志ではなく腕を切り落とそうとした行動。


 それと、アポロンが負った傷がすぐに完治しなかった事象に関して、グラウコーピスはそう意見を述べた。



 アテナの感性――外的刺激を感受する感覚的能力――が働いて、そのときアポロンに対して有効な手段を感知した。


 そしてエストリーゼが望む結果に紐尽く手段として合致したため、自然に身体が動いたのではないかと言う。



 つまり、エストリーゼの潜在的な意志がその方法を得て、行動として具現化したという意味だ。



「まぁ、人間が女神を継承するなんてこと自体前例がないわけなんだから、本当のところは誰にも分からないんだけどね。とりあえず今のボクには、あのアポロンが君を庇ったって話の方が、ずっと衝撃が大きいよ」



 まんまるの目をクルリと回転させ、グラウコーピスは本気で驚いているようだ。



「ですが、あのような危ないことは二度となさらないでくださいね。わたくし、またお姉様を亡くすなんて考えたくありませんわ。そうでなくとも、クロノスとモグラのオバさんを恨んでおりますのに!」



 アフロディーテが「お姉様」と呼ぶのは、エストリーゼがアテナ継承者だからだそうだ。



「……モグラ?」



 エストリーゼの脳内には、地中に生息する小動物が思い描かれた。


 そこへ彼女の想像を予想したグラウコーピスがすかさず補足する。



「えーと。たぶん、大地の女神ガイアのことだと思うよ。彼女は地球の中心、つまり地下に神殿を構えて暮らしてるからね。――ガイアは百一回目の戦争でアテナが死に、オリュンポス軍は敗れると予言したんだ。そしてその通りになった」


「そうですわ! あのオバさんが縁起でもない予言を口にしたからいけないんですわ!」



 勢いよく怒りを叫ぶアフロディーテに苦笑して。


 グラウコーピスは話を切り替える。


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