第81話 三つの扉

「これが扉? だけど、三つもあるわ……」



 咆哮を追って暫く進むと。


 渓谷の途中に位置する少し開けた場所に辿り着いた。



 その片方の壁面に巨大な扉を見つけ、エストリーゼは佇む。


 壮絶な高さの岩場に半ば埋もれるようにして、長大な高さの扉が存在している。



 ガイアから預かったのは金の鍵ただ一つだというのに。


 目前には三つの扉が存在していた。



 金・銀・銅。



 三色の扉には、その大きさにふさわしい巨大なかんぬきがかかっている。


 さらに太い鎖で絡められ、中央には扉と同色のじょうが掛けられていた。



 しかしその錠は、とても鎖を留めておけるとは思われないほどに小さくて脆そうに見えるものだった。


 恐らく同色の鍵がついとなっているのだろう。



 他の扉のことはもちろん気になる。


 が、今はとにかく、手元にある金の鍵で開けられる扉を進むべきだろう。



 そう決心したエストリーゼは金の扉の前に進み出る。


 と、迷わず手に持つ鍵を錠の鍵穴へと差し込んだ。



 その瞬間。



 突然、例えようのない危機感に襲われたエストリーゼは、その場を驚異的な速さで飛び退いた。


 大きな破壊音に振り向いてみれば、一瞬前まで立っていた場所には大きな穴が空いていた。



 間髪入れず。



 新たな攻撃がエストリーゼの姿目掛けて襲ってくる。


 一瞬差で迫り来る巨大な物体を巧みに避け、今度は空中へと飛び上がった。



 目前に巨大な一つ目があることに驚いて、弾かれたようにさらに上空へと飛び去る。



「こ……れは。この怪物は……」



 単眼巨人のキュクロプス――。



 かつて、メッシーナ劇場で自分を襲ってきた魔の者。


 クロノスの差し金か。



 アテナ継承を促しながらも、己がこもはがねとりでを守るためエストリーゼの行動を阻止しようというのだろうか。



 キュッと唇を引き締めると、覚悟を決めたエストリーゼはその腕に翠緑の剣を出現させる。


 大きく息を吸い込むと、勢いをつけて巨人の胸元へと飛び込んだ。



 左胸を一突きに――!



 けれどエストリーゼの身体は大きな腕に行く手を阻まれてしまった。


 不測の事態に対応できず、勢いをつけたまま慌ててその腕に斬りかかる。



 キュクロプスの腕からは深碧色の血が溢れ出た。


 しかし、もう一方の腕にエストリーゼの身体は捕らえられてしまった。



 巨人の動きが予想以上に素早かったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る