第115話 アポロンの失敗

 夢かもしれないし、また期待を裏切られるかもしれないとも思った。



 けれど一番の理由は。


 彼女が戻ってきたときに、自分が取るべき態度をまだ決めてなかったからだ。



 アポロンは冷静を装うのに必死になった。


 最初の一言が肝心だろう。



 なんと声を掛けたらいいのだろうか。


 左胸の鼓動は今にも口から飛びださんとばかりに踊り狂っている。



 既に伊達男失格は決定的だ。



「ねぇ、グラウは?」



 エストリーゼはそう訊ねてきた。


 その声からは、アポロンが自分の姿を見ようとしない様子を不審に思っているのが感じられる。



 彼女はグラウコーピスがアテナ神殿を着々と準備してることも知らなければ、もとよりアテナ神殿の存在すらも教えられていない。


 今の時点で彼女が帰ってくるとしたら、このアポロン神殿しかあり得ないのだ。



 故に、彼女はグラウコーピスがこの神殿にいると思っているのだろう。



「さあね。それにしてもどうして君もグラウコーピスも、私の結界をずけずけと入ってくるんだい? いくら私でも、いきなり現れたらビックリしてしまうんだよ?」



 アポロンは最初の一言にあえなく失敗した。


 自分のことよりグラウコーピスの所在を心配する彼女の言葉が不満で、ついつい勝手に口を開いてしまっていたのだ。



 それでもアポロンは踊る心臓を懸命に抑えて、涼しい顔を装った。



「え……結界なんてあったかしら」



 エストリーゼの言葉にアポロンは顔を引き攣らせた。


 己の結界がいかに脆弱であるかを思い出したのだ。



 しかも鉄壁の障壁を作ることができる今の彼女からみれば、彼の結界など蜘蛛の巣程度の代物だろう。


 アポロンは逃げるように話題を変えた。


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