第100話 立ち塞がる障害

 神殿に降り立つと同時に――。


 襲いかかる獣の形をした魔物をエストリーゼは切り捨てた。



 真っ二つに分かれた魔獣の体が、背後でバシャリと嫌な音を立てる。


 空中からも翼ある魔物が攻撃を仕掛けてくる。



 降り注ぐ槍の間を抜け、軽く壁を蹴るとエストリーゼは大きく飛躍した。


 そのまま宙を飛び、槍を投げてくる翼ある怪物を薙ぎ落としていく。



 魔物が吹き上げる返り血が、赤いトーガをどす黒く変えていく。


 血液を吸った生地は重みを増し、エストリーゼの身体さえをも濡らしていった。



 一つ、また一つと神殿内の部屋を抜け。


 確実に目的の場所へと進んでいく。



 断末魔の叫びは鋭く、魔物のものであると分かっていてもエストリーゼの心を締め上げる。



 ――早く終わって欲しい。



 すでに臨界点を超える程に痛めつけられた心は、逃げ場を探す果てにその願いへと終着していた。


 感情は凍結し、ただ終わりを信じるのみ。



 神殿を抜け岩場を進むと、砦らしき塊が見えた。


 瓦礫と化した鋼砦ごうさいの中に、黄金の光が輝いている。



 クロノスが張った最後の結界だろう。


 しかし、その周りには人の形をした戦士が行く手を阻んでいた。



 ティターン神殿でテテュスがエストリーゼを襲わせた戦士と同じタイプのようだが、もっと身体は大きく、纏う鎧も頑丈そうに見える。


 所持する剣や槍などの武器も、格段に良いもののように感じられた。



 こんな戦士と戦えるのだろうか――。



 それに確か彼らには、人に似た感情のようなものがあったと記憶する。


 嫌な想いがエストリーゼの頭をよぎった。



 にじり寄る戦士へと剣を向けたまま、エストリーゼは声を張り上げた。



「クロノス! もうあなたに逃げ場はない。無駄な争いはやめましょう!」



 何の返答もない。


 けれど、ここにがいるのは確かだ。


 胸に息を吸い込み、音量を上げて再び声をかける。


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