第20話 アイテムのランク



 あの後ちょっとした世間話をして、俺たちは漸く解放された。


「あ~、一時はどうなる事かと思ったが、とんだ杞憂だったな~!」


 冒険者ギルドを出て、その開放感から皆夫々に身体から力を抜いた。


「ほんと、心配して損しちゃった!」

「そうっすよ。ギガンさんたちは、心配し過ぎっす!」

「ばっかおめぇ、こういうことはな、最悪を想定して動かなきゃなんねぇんだよ」


 そう言いながらギガンは、こつんとテオとチェリッシュの頭を小突く。

 確かにそうだよな。俺も爺さんから、常に最悪を想定して動けと言われてたし。安易な考えは危険を呼び込む。油断することが一番危ないのだ。なので常に慎重に、警戒心を怠るなと言い聞かせられていた。

 まぁお陰様で、危機管理能力的なモノは身についているとは思う。でも油断していたから、この世界に迷い込んだのかもしれない。そう考えると、改めて気を引き締めないといけない気がした。

 それにテオやチェリッシュにはそれがまだ身についていない状態だろうしね。でもちゃんとした大人が側についていてくれれば、それらを学びながら成長していくだろうけど。


「でもここがそんなに切羽詰まってたなんて、知らなかったわね」

「ギルドの事情より、自分たちの稼ぎ優先だからなぁ」


 知ろうとしなければ、知り得ない内部事情だからね。

 ギルマスの他、ギルド職員さんたちも、キャリュフの採れる森と判明したことで、とても喜んでいた。早速調べて来ますと、何人かが森へと武器を担いで去って行った。

 薬草採取なのに武器を持って行かなきゃならないなんて、異世界の薬草採取は危険が伴う大変な仕事なんだなぁ。俺はシルバやパーティメンバーのお陰で暢気に採取しちゃってたけど。

 俺の迷い込んだ森は、猪(ボア)や猿(フライングエイプ)の他に、熊(ルーンベア)や魔狼も出没する。それらの脅威に晒されながら採取をしても、知識がなければ実入りは少なくなる。だから徐々に冒険者が寄り付かなくなってしまうのだろう。


 冒険者たちは実力が上がれば自然に稼ぎの良い、大きな街へと移動していく。だから駆け出しの冒険者や、実力不足の冒険者ばかりしかいない場所には足を向けなくなる。ここはそういう場所で、住んでいる人たちは日々の暮らしに不安を感じていたらしい。

 改めてこの町を見渡せば、確かに賑わっている様子はなく。昨日は日暮れだったから気にしていなかったけれど、言われて見れば確かに、昼間なのに通りに活気がなかった。


「これで少しでも賑わうようになりゃいいがな」

「薬草採取って地味だもん。なのに学ぶことが多くって大変だよねぇ?」

「でも俺、今回で随分と知識が付いた気がするっす!」

「バカかお前ら。こんぐらいで大変だとか、知った気になるんじゃねぇよ。まだまだ覚えることは沢山あんだぞ!宿に帰ったら、忘れねぇうちに徹底的に復習させるからな!」


 ギガンにそう叱責を受けて、二人とも嫌そうに首を竦めた。

 

「薬草採取も大事な収入源だし、魔物を斃す事だけが冒険者ではないんだがな……」

「派手に魔物を倒したがる若い子が多いものね。それだけじゃ、命が幾つあっても足りないわ。なのに最低限の知識すら持たない子が増えてるしねぇ」

「英雄症候群ってやつだな。蛮勇でしかねぇってのによ」


 それはもしや、俺の世界でいうところの中二病的な、不治の病ではなかろうか?やがて黒歴史になるっていうのに、世の中を判ってないおバカさんが、自分を特別な存在だと勘違いする奴だね。


「私も噂程度でしか知らないけど、どうも家督を継げない子息子女の間で、冒険者になるのが流行っているそうなのよ。それが原因かしらね?」

「貴族は魔力も高い者も多く、幼少の頃から魔素耐性も身に着けさせられるからな」

「あ~、俺もちっと耳にしたな。比較的安全なダンジョンで、ガキどもに体験学習とかさせてんだろ?そこで冒険者稼業に興味を持っちまったのか?」


 うん?もしかして冒険者って、子供の将来なりたい夢の職業的な扱いなのかな?

 俺の世界の動画配信者になりたがる子供みたいなもんかね?

 でも実際にやってみたら判るけど、かなり大変なんだぞ!っていう話は置いといて。面白そうなので、彼らの話に俺は耳を傾けた。


「……その話なんだが、多分、学園都市(アカデミア)が発端なんじゃないかと思う」」

「エテュセの学園都市(アカデミア)か。またそりゃなんでだ?」

「あそこは庶民でも優秀であれば、貴族でなくとも通えるようになっているだろう?」

「そうねぇ。エテュセは自由・平等・博愛を掲げて、優秀であれば身分を問わないものね」


 おっと。魔塔という存在の謎が解明されるよりも前に、この世界の学校の話が出た。

 ここにきて俺は、この世界の教育水準について知れるかもしれないと、期待しながら真剣に聞き入る。


「毎年のことだが、魔物研究科の学生が、実際にダンジョンに入るという課外授業があるんだが……」


 ディエゴは昨今の貴族間の冒険者ブームについて、発端となった話かもしれないと一言付け加える。

 その内容によると、この世界での大学にあたるアカデミーには、魔物の生態を調べる名目で、実際にダンジョンで冒険者指導の下に学ぶ課外授業があるらしい。前提として、ダンジョンのある領地の後継者ばかりを集めてだけれど。

 そんな中、家督を継げなかった、または家が没落したかで、やむを得ず冒険者になった元貴族が出た。だが彼は腐ることなく、アカデミーで学んだ知識によって、日々ダンジョンで研鑽に研鑽を重ねたそうだ。

 そうしてとあるダンジョンで、レジェンダリー(伝説)のアイテムを手に入れ、それを自国の王に献上し、褒美として叙爵され返り咲いた―――という、成功を遂げたらしい。


「なんか、微妙な気持ちになるっすねぇ……」

「羨ましいっていうより、疑わしいって感じじゃない?」


 レジェンダリー級のアイテムを、貴族籍を手に入れる為に手放すなんてあり得るのだろうかと、テオたちは疑っているようだ。


「大体、レジェンダリーつったら、国一つ滅ぼせる威力がある武器だって話じゃねぇか。まぁ、んなもん手に入れたなんて聞いたこたぁねぇけどよ。レアだってそう手に入るもんじゃねぇ」

「だよね~?そんなの手に入れた国があったら、戦争でも始まりそうなもんだしー」

「領地を巡って、領主間での小競り合いはあっても、そこまで深刻な状態になってる国はねぇしなぁ?」

「だからこそ伝説の武器なんでしょうね。でも所詮はおとぎ話よ。流石にダンジョンでも、そんなアイテムがドロップするわけないじゃない」

「夢はあるっすけどね。俺はせめてアンコモンでも手に入ったら嬉しいんすけど」

「一流の職人でも作れるランクがそれぐらいじゃない?」

「でも貴族だったら、最初から一流の職人の作った装備でダンジョンに入れるってことっすもんね」

「あたしたちは、地道に装備のレベルを上げるために、こうして苦労してるってのにね!」


 フムフム。なるほど。……全くわからん。

 アイテムのランクの話なんだろうけど、伝説と言えばエクスカリバーしか俺は知らない。

 石に刺さってた魔法の剣だったか、それとも聖剣だったか。選ばれし勇者モノでよくネタにされてる伝説の武器だよね。

 同じく伝説の武器である天叢雲こと草薙剣みたいに、八岐大蛇を退治した時に尾から出て来たって聞くと、まんまドロップアイテムって感じがするけど。もしや草薙剣は、ドロップアイテムだった……?しかし草薙剣は神話時代の武器だから、レジェンダリーより更に上のミソロジーとかいうレベルになるのではなかろうか。


「チェリッシュの言うように、もしそれが本当なら、レジェンダリーアイテムの所有権を巡って、国家間で血の嵐が吹き荒れてるにちげえねぇよ」


 嘘か真実かは別にして、どうせ噂話に尾ひれがついて、冒険者ドリーム(成功者)が貴族の子息子女の間でブームになっているだけだろうと結論付ける。


「それで、元貴族の冒険者が増えてるってことなの?」

「こんな片田舎にまでは来てねぇだろうがな」

「だったら俺は、出来るだけ貴族冒険者には遭いたくないっす」

「アタシもー!庶民が成り上がれる唯一の職種に、何で裕福な暮らしをしてた奴らが侵食してくるのかなぁ?職業選択の自由があるのに、わざわざこっちに来ないで欲しいよね!」

「あ、あら、でも私はね。どんな過去や経歴を持っていようと、冒険者として真っ当なら文句はないわよ?」

「見てくれだけで判断しねぇで、中身を見ろってことだな」

「そういうこと」


 そうしてここで、この話題は一旦終了した。なんか最後らへん、アマンダ姉さんとギガンが慌ててフォローを入れてた気がするんだけど。気のせいか?

 俺としては、この世界の学校とか、そこで学ぶ魔法についてもっと知りたかったんだけどね。なんか全然違う話だったみたいで残念。

 ただね。ちょっと気になったのが、皆の会話にディエゴだけが口を挟んだり、意見を出さなかったことだ。

 なんでかなぁ~?



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