第57話 敵の敵は味方
事実上、【ホワイトキャッツ】は、ここで解散することになった。
パーティ名は彼女たちが付けているので、そのままではあるけれど。ただしランクを底上げしていたロベルタさんが離脱することで、護衛依頼を受けられなくなった。
やはりロベルタさんありきのパーティだったそうで、この旅団(?)の商人さんたちからは指名を受けられなくて、しかも護衛依頼も既定ランクの三ツ星以上がいなくなったのでお別れすることとなった。当然の結果だよね。
ただし、それは彼女たち四人だけの話である。
どういう思考回路をしていたのか判らないけれど、彼女たちは当然自分たちに指名依頼の声が掛かると思い込んでいた節があり、指名されないことに腹を立てていた。
客観的に見て、彼女たちに三ツ星レベルの実力はないのに、ロベルタさんの功績を都合よく自分たちの手柄と考えていたのだろう。(この街でランクが上がると思っていたみたい)
それとは逆でロベルタさんは、エアレー狩りの時と大食い大会での勝利を含めて、商人さんたちの鋭い審美眼によりかなり評価が上っていた。
素人目から見ても、実力がありありと判るもんだしね。
「ロベルタ嬢には、是非私の指名を受けて頂きたい!」
「いやいや、何をおっしゃいますか。ここはワシが指名させて頂く!」
「なんですと!?」
「先に声を掛けたのはワシですぞ!」
「声を掛けただけではないですか!!」
なにを~! とか、やるかコラ! とか言いながら、商人さんたちが口喧嘩を始める。手は出さず口撃するだけなところが商人である。
それを見ながら、焦るロベルタさん。仲間からパーティを追放されて哀しんでいる暇などなさそうだ。
「彼らも私と同じく【アントネスト】に行くのですが、いやぁ~流石ロベルタ嬢ですなぁ。ソロとなっても全く問題がなさそうです」
暢気にもそういうシュテルさんである。
パーティからの追放劇って、案外珍しくもないのかな?
そう思って視線を向けると、シュテルさんは苦笑しながら言った。
「実力差があり過ぎると、どうしてもこのようなことになってしまいますからね。不思議なことに、実力のある者について行くのではなく、同じレベル同士で結託することが多いのですよ」
「ふうん?」
「自分にとって不利になる相手とでも言いましょうか。いずれ自分を脅かす存在になると、被害妄想に捕らわれるのですよ」
実際にされたか否かの問題ではない。そうなるかもしれないという妄想から、何時の間にやら被害に遭ったという錯覚に囚われるのだそうだ。そしてそれを共有する。
敵の敵は味方っていうか、共通の敵を作ることで、仲良くなる心理だね。
【認知的バランス理論】っていうんだけど、判りやすく例えるなら『坊主難けりゃ袈裟まで憎い』みたいに、心理的なバランスをとることを言う。
自分の主張に対立する、理想的な敵を描くこと。例えば出世した同僚(上司)に対して抱く劣等感を、無能な同僚同士で批判することで分かち合うみたいな感じかな。
弱い者を叩く苛めの方がどうしても取りざたされるけれど、社会に出れば判ることもある。本当の敵は誰なのか。今目の前にいる、自分と同じ主張をしている者こそが、いずれ対立した意見を持って自分に牙を剥く存在であるということに――――。
苛めも同じ心理的原理が働いている。
仲間外れにされたくないから、大多数がさも自分も同じ意見であるかのように振る舞うのだ。矛先が自分に向かわないように。
それは人間の本能のようなものなのだろう。
間違っていると判っていても、意見の同じ者が多ければそちらへ傾く。安心感を得るために。
だから何時まで経ってもこういった自体は減らないんだよな。
だが共通認識があるからと気が合うと思っていたら大間違いであり、意見が変わればその場限りだってことに気付く人は少ない。
割り切った付き合いをしているなら、ダメージは少ないんだけど。
物事の本質というのは、中々見抜けないものだしね。
クズはクズ同士で仲良くしているから、判りやすいんだけどな。
「では、私はこのエアレーの肉を、5K追加します!」
「ワシは6Kだっ!」
「ぐぬぬ……では、8Kに増やす!」
「じゃぁ、10Kでどうだ!」
「あ、あのっ、そ、そのへんで、もう、やめてくださいっ!」
まだまだロベルタさん争奪戦は続きそうである。
でも、彼女はソロでも十分強いから大丈夫だろう。寧ろあのメンバーから足を引っ張られていたしね。
そんなお荷物だった彼女らがいなくなったことで、却ってロベルタさんを指名し易くなったみたい。
何であんなのとパーティを組んじゃったのか判んないけど、それでも実力を認めてくれる人はちゃんといると判って、俺は安心してその場を離れた。
◆
最終的に、エアレーの肉30Kを護衛の指名料に上乗せした商人さんが勝利した。
お金で殴り合う商人ならではの戦いである。
「こ、こんなに、い、いただいて、よかったの、で、でしょうか……?」
「あらあら。自分を安く売っては駄目よ? 釣りあげられるときに釣り上げてないと、舐められちゃうんだから」
「ですよね~!若さも強さもいつまでもあるもんじゃないし!」
何を判った風に言っているのか。アマンダ姉さんの言葉には重みがあるけど、チェリッシュにはそれが全く感じられない。ただの受け売りだ。
ただ慰めになっているってことは判るので、ファインプレーの一種として褒めてあげよう。心の中でだけだが。
「じゃぁ、この肉はリオンが調理するから、預かるわね」
「は、はいっ! おねがい、し、します!」
「あ、それと。シャバーニさんだったかしら? 貴方も良ければ、リオンが研究に付き合って欲しいと言っているのだけれど、どうかしら?」
蠱惑的な笑みを浮かべ、アマンダ姉さんがシャバーニさんを誘惑している。
だがポジティブマッチョに、その誘惑攻撃は効かなかった。
アマンダ姉さんではなく、俺の方に向かって神妙な顔つきで口を開いた。
「聞けばロベルタ嬢の強さも、リオン君の食事管理による賜物だとか。であれば、是非ともその研究にオレも加えて頂きたい!」
「うん」
「それと申し訳ないが、良ければ、その、仲間にも、その研究に加えさせて頂けると嬉しいのだが……?」
「いいよー」
一人も二人も、それが六人になってもいいよと、俺は頷いた。
するとシャバーニさんの仲間である【GGG】のみなさんが、わっと盛り上がる。
ポジティブゴリマッチョのみなさんは、俺の中ではすでに研究対象としてロックオンしていた。なので否はない。
爽やかマッチョだけどしつこくないし、弱そうな俺に対してとても丁寧に接してくれている。強さは時に暴力となるけれど、本当に強い者ほど優しくできるんだよね。
「もちろん、肉は持参させて頂く。今回のエアレー狩りで、かなりの肉を調達できたのでな!」
「わかったー」
狂戦士であるから、大量の食べ物を必要とするので、シャバーニさんもパーティの中ではエンゲル係数を跳ね上げるポジションらしい。でもそれを理解した上で、彼の仲間は受け入れているようだ。
筋肉に魅せられた筋トレ仲間だしね。常に爽やかに、愉しそうに筋肉を虐め抜いている。彼らにはテオと同じく、クソ不味いプロテインの餌食になって貰おう。
味の改良にはもうちょっと時間がかかりそうだし。それでも筋肉を鍛えるためならば、その苦行にも耐えてくれそうだ。(ついでに味の改良にも協力して貰おう)
因みにテオには、我慢してプロテインを飲んだ後に、ご褒美として甘いデザートを与えている。そうしないと、飲んでくれないのだ。
テオには【GGG】のみなさんと一緒に、筋肉を鍛える修行をさせてやるからな!
そうして俺たちは、なんやかんやありつつ。メンバーの変更を加えながら、ブリステン領の【アントネスト】へ向かって旅立つことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます