第38話 あたおか狂人だらけの魔塔
結論として、フリーズドライ製法は、ディエゴが魔法技術の特許を取る事で無理矢理収拾した。
発案者は俺だからとディエゴが滅茶苦茶ゴネタらしいんだけど、魔法の術式や商品化の資料説明が出来るのがディエゴしかいなかったんだもん。仕方ないよね?
それに何気なくやっていたフリーズドライ魔法(?)だけど、実はディエゴレベルに使える人間は多くないらしい。それこそ魔塔に属する魔法技術研究員の中でも極僅かだそうだ。やはり俺ごときでは、この世界の魔法を理解するのは無理みたい。
というのも、フリーズドライ魔法自体、様々な属性魔法を駆使するため、属性的に魔法の発動が出来ない人の方が多く、魔力の高い複数人でやれば何とか再現可能なレベルという、超高度な魔法だった。(そもそも全属性持ちが希少)
しかもディエゴの発想がサイコパスってたので、危機感を持ったアマンダ姉さんとギガンは、フリーズドライ魔法術式の閲覧使用料をとんでもない金額に設定させた。なので余程のお金持ち(変わり者)でもない限り、閲覧はしないし理解すらできないので、収入になるかどうかは未確定。興味本位で大金を支払う馬鹿はいないだろうとのことで、ディエゴは渋々了承したのである。
よしんば使用料を払ってくれる奇特なあたおかが現れたら、そのあぶく銭でパーティに有意義な買い物をするつもりだってさ。何を買うんだろうね?
そしてフリーズドライ魔法術式の使用料を払う可能性があるとすれば、魔道具として製品化する技術がある人だけだと思われ。それこそ狂人者の集う魔塔でしか、このフリーズドライ魔法術式を閲覧しても、理解することも技術として活かせる者もいないということだ。
人間がフリーズドライ魔法を使うとすれば、ディエゴみたいな発想をする人は必ずいるだろう。でも魔道具なら本来の目的に見合った、正しい使い道になるんじゃないかな?(そうであってほしい)
そうして現在。ディエゴは特許出願のため、登録申請書を作成させられているところだった。
サラサラと書き込まれる文字を見ながら、論文みたいだなーと学生時代の艱難辛苦を思い出す。ただパソコンがないからもっと大変そうだけど。
しかも意外なことに、この世界の特許の出願書類は、資料として提出するだけあって細かかった。科学が進歩しているというより、魔法が進歩した世界だからかな?
自然法則とか、技術的思想とか、産業として利用できるか―――等々。魔法の発明であってもそこは重要らしい。魔塔が魔塔たるのは、そこに魔法による技術革命があるからなんだって。
そして俺は、この世界が産業革命的な時代に近いのではと気付いた。
ただ蒸気機関とかで空気が汚染されるようなことはなく、魔法という超自然的なものを駆使した技術なので、自然や環境破壊にまでは至っていない。魔物が出没したり、ダンジョンみたいな謎空間が突如発生したりする危険性はあるけど。
みんなが知っている体で話していて、中々聞き出せなかった【魔塔】も、今回のことで俺は知ることができた。
魔塔とは、【魔法使いによる技術研究塔】の略式名で、魔法が先天的に使える魔法のスペシャリスト(所謂ギフテッド)であり、天才たちの集う最高学府である。
一般人に溶け込めない、優秀過ぎるが故に『頭がおかしい』扱いされた、生まれながらの天才が『魔法使い』であり、大昔は危険視され『魔女狩り』のような扱いをされた者たちでもあった。
でも現在はその能力が認められ、ギフテッドのように保護されるべき対象となっているそうだ。
何故同じ魔法を使うのに、魔術師と魔法使いで区別されているのかというと、魔法を生まれながらに使えるのは魔物に多かったから、魔法使いも魔物と同一視されていた時代があったんだって。なんという理不尽!
よって魔法を使う『魔術師』は、後天的に学校などで学んで魔術が使えるようになった者であり、『魔法使い』とは似て非なる存在らしい。魔術師は優秀ではあっても、天才とまではいかないんだって。
いくら魔力が高かろうが、属性があろうが、自力で魔法の発動が出来る訳ではないので、そこは専門的に学ぶ必要があるようだ。お菓子が好きでも、そのお菓子を作る基礎から学ばなければ作れないのと一緒だね。(教わることなく菓子が作れるなら、二度目の人生を疑う)
ゲームの世界のように、魔法を使って何かを斃したところで、都合よくレベルアップしたりもしない。個人の能力や理解力で、実力が伸びる伸びないがあるんだそう。
アマンダ姉さんも、この『魔術師』にあたる。火属性と風属性持ちで、攻撃魔法特化型の魔術師だそうだ。魔力が多いせいで、細かい操作は苦手なんだって。
一方のディエゴといえば、『魔法使い』にあたる。その『魔法使い』は生まれながらにして魔法が使える。誰に教えて貰った訳でなく、生まれつき『特定の能力が既に備わった状態』ということだ。
【魔塔】というのは、そういった魔法使いたちだけで組織された、最高学府みたいなもんらしい。
だからちょっと、世間の常識から逸脱した行動をとるのも、仕方がないとされているわけだけれど。
サヴァン症候群みたいに、特定の能力が突出しすぎて、拘りが強く他のことが全く理解できない―――と、いうのともちょっと違う。思考回路が狂人に振り切って周りが見えなくなることは多いが、理解力は非常に高く無駄を嫌う傾向が強いらしい。よって組織として対応する速度は正に迅速とのこと。
IQが高すぎると、普通の人との会話に苦労するっていうしね。確かに凡人には理解されないだろう。だから魔法使いたちは【魔塔】に集まっちゃうんだろうな。
あたおかな狂人ばかりなイメージが強いみたいだけど、この世界に出回る便利な魔道具の半分以上が、魔塔による発明品でもあった。(魔塔は知的財産で成り立っている、超お金持ちあたおか集団なのだ)
そんな魔塔出身者であるディエゴが、苦も無く該当する項目を書き連ねていく。頭は良いんだよね。サイコパスってるけど。
俺の雑な念派映像を理解してしまうのも、IQが高いからだったんだなと今なら納得できる。魔法だから可能なのではなく、【魔塔】出身者だからなのだ。
便利な魔道具も、一般人が使えるように作ってあるけど、その構造を理解できる人間は少ない。スマフォを何気なく使っている俺だって、どうやってそれらが機能しているかなんて考えたこともないもんね。
魔法だからイメージが全てを可能にするのではない。「人が想像できることは、必ず人が実現できる」とは言うけれど、科学であれ魔法であれ、想像を実現可能にするのは天才と呼ばれる一握りの人間だけなんだよなぁ。
俺には科学的に証明できることは、魔法でも実践可能ってことぐらいしか判らないし。その魔法の仕組みを理解していないので、イメージ力以前に発動は不可能なのである。
人間諦めが肝心っていうじゃん?できもしないことを無駄に続けるよりも、出来ることを探してその才能を伸ばした方が有意義だもんね。
そんな埒もないことをつらつら考えていると、ディエゴがふうと一つ溜息を吐いた。
「……もし、これが閲覧されることがあれば、少々厄介なことになるかもしれないんだが……」
ぽつりと一言、ディエゴがこぼす。フリーズドライ魔法術式による、製品可能な項目を埋めて、俺に話しかけた。
お疲れなお兄ちゃんに、インスタントコーヒー(結局作った)をそっと差し出し、続きを促す。相変わらずディエゴの瓶が大活躍である。
なんか面倒なことばかりさせて申し訳ない。反省はしてるけど、俺もこの世界の常識がまだ判んないんだもん。ごめんね。
「どうせこの手の特許術式は、魔塔の連中以外は興味を持たない。だからこそ、見つかりやすいんだ」
「みつかると、こまる?」
「連中ならこの術式を閲覧して、魔道具化まで漕ぎ付ける可能性がある」
「うん」
通常利用したい特許内容を閲覧してその技術にライセンス料を払うことはあれど、発明者にまで興味を持つ人は皆無に近い。わざわざこの製品の発明者なんですよと宣伝でもしない限り、使用者は気にもしないだろう。
特許王みたいに知られるには、宣伝しなければならない。俺はテスラの方が好きだけど。
「そうなると、何故その考えに至ったかまで知りたがる」
「うん?」
「リオン、お前が狙われる」
「なんで?」
「頭のおかしい連中ばかりだが、そういう勘だけは優れている。知的好奇心が旺盛なんだ。本当の発案者と発覚すれば、研究対象として捕獲されるぞ?」
「え。やだ」
「だから俺が矢面に立つんだが、あまり不思議な行動はとらないようにな?」
「……」
俺はいいんだ、元々魔塔に在籍していたからな――と、ディエゴは諦めたように溜息を吐いた。
不思議な行動って何?と聞きたいが、やぶへびになりそうで黙っておく。
ディエゴはサイコパスっぽいけど、俺はポンコツだからね。妖精じゃないってことがバレる心配よりも、もし異世界人だとバレたらどうなる事やら。捕獲される宇宙人のようになるかもしれない。
ここはディエゴの言う通り、ボロが出ないように大人しくしておこう。
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