第37話 魔塔の謎、深まる
「全然よくないわよね?」
「それで?実験とやらに夢中になって、お前も一緒にやらかしたのか?」
「いや、俺はやらかしてはいない」
スンとした表情のディエゴが、ギガンとアマンダ姉さんに説教されている。
何故かそこに俺もいて、同じようにスンとした表情で一緒に説教をされていた。なんでだ?
「あれだけ、大人しくさせておいてくれと、言ったはずだが?」
「大人しいもんだろう?ただ料理をしていただけなんだから」
「そうね。ただの料理なら、私たちだって何も言わないわよ?でもね、あんたまで一緒になって、とんでもない物を造り出さないでよ!?」
「とんでもなくはない。かなり画期的なアイデア食品だと、シュテル氏からもお墨付きを貰った」
そうなんだよね。あの後、奥さんと一緒にテンションの上がった俺たちは、地球では見慣れたフリーズドライのインスタントスープを作った。
なんとインスタントのリゾットも出来たよ。ただインスタントコーヒーを作ろうとしたところで邪魔が入った。
インスタントの開発に夢中になっていたところに、護衛を振り切って遊びに来たシュテルさんまで加わったのは予想外なんだけど。それがまずかったらしい。なんでだ?
「それがとんでもないんだよ!気付けっ!!」
「これぐらい、魔塔では日常茶飯事の実験だが?」
ですよね。この手の発想や、先人の知恵を借りた実験って、大学じゃ当たり前に行われている。何もおかしいことではないと、俺も思うんだけど?
まぁ、殆どが興味本位の悪ふざけの場合もあるけど。(モラトリアム人間に多い)
だけどギガンやアマンダ姉さんは、そう簡単に納得してはくれなかった。
「やっぱりディエゴも……魔塔出身者なのね。今までそんな素振りはなかったのに、どうしてこうなるの?」
「魔塔は頭のおかしい奴が入るってのは、マジだったんだろう。毎年絶対何人かは実験だとか言って、フェアリーリングを探しに森に行って、そのまま帰ってこねぇ連中の捜索依頼の多いことは有名じゃねぇか……」
「ギルドであの依頼を見るたびに、また
まるで風物詩のような言い方だね。風物詩なんだろうけど。恒例行事として、決まった時期にやらかしてるのかな?
「それは妖精狂い限定だ。リング状に生えたキノコを食って頭がイカレているだけで、特に害はない」
「害がありまくりだろうがっ!」
そして彼らが消えたとされる森や山へ、捜索隊として向かわせられるのは冒険者だそうだ。
フェアリーリングは入梅から梅雨明けまでの潤湿な時期によく発生するため、その時期になると魔塔の【妖精狂い】が失踪、または遭難してしまうらしい。
【妖精狂い】と称される彼ら―――妖精見たさにアグレッシブに活動するあたおか連中―――は、魔塔の近辺ではなく、フェアリーリングがありそうな場所へならどこにでも現れる。(神出鬼没)しかも発見した時は、皆ラリって踊り狂っているので、一見すると魔物より怖いらしい。(悪魔召喚でもしているように見えるそうだ)
危ない薬をキメテる酔っぱらいみたいなもんだろうか?もしや生えているキノコはマジックマッシュルームじゃあるまいな?
本人たちは楽しそうにしていると、興味を持った妖精が集まると信じているらしいのだけれど。でも妖精だって、そんな気味の悪い連中の傍には近寄らないと思うよ。俺だったら絶対に近付かない。
どうもこの世界のフェアリーリングは、妖精の空間移動の一つとされていて、そこに入れば運よく妖精の世界に行けると信じられている。実際に何人か誤って踏み込んで、別の場所に飛ばされたことがあるそうだ。
俺の世界でも似たようなもので、昔は妖精の集会場所だったとされるんだけどね。
しかし今ではフェアリーリングのある場所は、科学的な研究によって色んな植物の成長を促すことが判明している。キノコの菌が様々な穀物や野菜の成長を促す効果があるのだそうで、フェアリーリングの土壌が、今後の食糧問題の解決に繋がるんじゃないかと期待されているのだ。
確かに夢が広がるような話だよね。生えてるキノコは食べられるそうだし。
どちらのフェアリーリングも夢は広がるけど、【妖精狂い】の連中のように、その夢の中に入りたいとは思わないが。
「魔物の家畜化が可能かって研究をしてて、コボルトを大量発生させて脱走されたって話もあるわよ?」
「あれは魔物への魔素供給過多による事故だ。飼育場所の囲いの強度が不十分だったのが問題なだけで、今は結界内で飼育しているらしい」
「それを事故で終わらせないで!その発想が危険すぎるって言ってんの!っていうか、まだそんなことをやってるの!?」
「貧困層への安価な食料供給の為の、献身的な研究なのだから当然だろう?」
「それで被害が出てたら意味ないでしょうが!」
そうして大量発生したコボルトが、飼育場から脱走して別の場所で繁殖したのを討伐するのも、これまた冒険者なのだそうだ。(コボルトは食用ではなく、魔物の中で比較的弱いため家畜化の実験用に飼育されていた)
この世界ではコボルトは妖精の一種じゃなくて、魔物なんだよねぇ。しかもゴブリンと似た種族のようだ。まぁ、ドイツでは邪悪な精霊扱いだし?魔物と同一視されてもおかしくはない。
しかも二足歩行のわんこだけど、攻撃的で懐くようなことはないっていうし。(ディエゴの図鑑にそう書いてあった)それを飼育しようと考えるなんて、やはりあたおかなのだろうか?
その他にも魔塔の学徒たちは、研究と言っては様々な危ないことを仕出かしている。それでもお咎めがない(厳重注意のみ)のは、研究結果のいくつかはまともな成果を出しているからなんだとか。
要するに魔塔の学徒や研究員たちは、過去から現在に至るまで様々な特許を出願し、ライセンス料の収入によってやらかした迷惑行為等の後始末費用を捻出しているのだ。マッチポンプってやつかな?
謎だらけだった魔塔が何となくだけど判明したような気がする。
多分だけど、俺の知るところによる狂人なる生徒が集う学び舎、狂人大学(意訳)みたいなものなのかな?
毎年機動隊が問題児の住む寮に家宅捜査して、その機動隊と仲良く記念撮影したりしているあの大学みたいなところだ。海外でも同じような狂人大学はあるけど、概ね頭が良い人間の考えつく内容ではないようなことばかり仕出かしている。
エリート狂人集団と名高く、頭が良いからおかしいのか、入ると頭がおかしくなるのか、またはどちらでもあるのか。彼らは常におかしなことをやらかす―――みたいな?
そういえばディエゴも、ちょっとおかしいもんね……。真面目で寡黙(に見えるだけ)だけど、サイコパス的というか、一番常識を持ってそうなのに、発想がヤバかったもん。
色んな状態の野菜や料理をいかに効率よくフリーズドライできるか考えてくれて助かったけど、それを大きさや質量を比較計算してどの程度まで可能かとか、ずーっとブツブツ言ってたし。アレは何に対しての計算だったんだろうか?考えるのも怖いや。
「もういいわ。ちょっとアンタはこっちに来なさい」
「ったく、厄介毎を増やすなっつってんのに、まぁた増やしやがって!」
「リオンはいい子だから、部屋へ戻っててね?シルバとノワルも、リオンをお願いね?」
「え~?」
「何で俺が連行されるんだ?」
「いいからこい!」
そうしてディエゴは、二人にズルズルと連行されていった。
なんかアレだね。シュテルさんと護衛の二人みたいな構図だね。
良い子の俺はシルバとノワルに促されて、言いつけ通りに部屋へと戻って寝ることにした。
フリーズドライは成功したし、後はどれだけ沢山の携帯保存食を作れるか考えるだけで良い。いやぁ~魔法って本当に便利だね。俺自身が使える訳ではないんだけど、ディエゴとシルバがいれば、高価な実験機器も必要ないから、今後の実験も余裕で出来そうで助かった。
だがその日の夜、ディエゴは寝室へは戻ってこなかった。
朝早くに起きてコテージのリビングを覗くと、死んだようにテーブルに突っ伏して寝こけている大人三人の姿があったので、話し合っている内に寝てしまったのだろうと推察する。
ここ連日、ずーっとシュテルさんや、どこかのギルドのお偉いさんや、商業関連の手続きでお疲れだもんね。
朝食には何か甘酸っぱい、疲労回復ドリンクでも作ってやるかな?
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