第85話 コラボメニューの実食

 テーブル席にオネーサンたちを案内していると、早速シャバーニさんが屋台のお肉料理を両手に抱えて持ってきた。

 どこぞのビアガーデンのウエイターのように、器用に料理を持ち運んでいるのに感心する。おじさんたちも必死に次々とお肉を焼いたり、揚げたり、蒸したり、茹でたりと忙しそうだ。

 辺りにはお肉と醤油のマリアージュした、食欲をそそる香ばしい匂いが漂っていた。


「あら~、イイ感じのテーブルねぇ」

「こういうのがあると、とても助かるな!」


 そうだろう、そうだろう。休憩用テーブルは、グルメフェス会場には必須のマストアイテムだと思うんだ。


「このアイデアも、リオン君なのかしら?」

「うん」

「よくこういうのを思いつくもんだな?」


 ディエゴまで俺を不思議そうに見るんじゃない。

 思いつかない方がおかしいんだよ。と言いたいところだが、異世界だからね。仕方がないね。屋台にはフードコートという概念がそもそもないし。

 それにアントネストには、気配りすべき女性客がいないのが原因でもある。

 野郎はそこで立って食ってろ。みたいな感じなのだ。その他の冒険者も気にすることなく立ち食いしまくってるし、お肉も手掴みだから見た目が野蛮ワイルドなんだもん。

 テーブル席を用意するなんて考えもつかないんだろうなぁ。

 小さな子供も見当たらないし。人口減少の原因である女性が少ないから、必然的に子供も少なくなるんだろう。寂れた商店街付近では、ちらちらと遊んでいるのを見かけたけど、子供が喜びそうな屋台近辺では見当たらなかった。


 という感想は置いといて、俺はササッとオネーサンたちの前にキャンプ用のカトラリーセットを用意する。二人から「ありがとう」ってお礼を言われたよ。

 そして俺のリュックから魔法瓶を取り出し、コップに麦茶を注いで渡すと「至れり尽くせりねぇ。気が利く男はモテるのよ~」ってオネーサンに褒められた。

 夏はやっぱり冷たい麦茶だよね!

 本当ならキンキンに冷えたビールが飲みたいんだろうけど。ダンジョンアタックするからお酒を飲んで酔っ払っちゃうのは拙い。それ以前にどこを見渡しても、屋台村には飲み物屋さんがなかった。

 お水は各自持参なんだろうけどさ。でもジュースとか甘い飲み物があれば良いなって思う俺の方がおかしいのか?

 出店したら絶対飲み物類は売れると思うんだけどね。そういうトコがここアントネストの駄目なトコロだぞ!


 そんな埒もないことを考えている間にも、GGGさんたちは爬虫類系お肉料理屋台から、出来上がった料理を受け取ってせっせとオネーサンたちの座るテーブルへと運んでいた。流石マッチョ。紳士だねぇ。

 そこでぼーっとしてるディエゴお兄ちゃんも手伝ってあげて~。シルバとノワルもね。後でジャーキーあげるから。

 ではオネー様方、おじさんたちと俺のコラボした料理の、実食をお願い致します!


「あらっ! 屋台のお料理だからって侮ってたけど、このお肉にかかってるタレがとっても美味しいわ~っ!」

「淡白な味のラーナ肉を薄く切って湯に潜らせ、トマトを細かく刻んだ甘酸っぱいタレをかけているようですが……。こうして薄く切ることによって、とても食べやすくなっています。緑の葉のお皿とお肉の白身、そしてトマトの赤のコントラストが、見た目の美しさとなって更に美味しさを引き立てています!」


 相変わらずの食レポありがとう、ロベルタさん。むこうでしゃぶしゃぶ肉を作っているおじさんにもはっきり聞こえてるようで、嬉しそうに目元を拭っているよ。

 このカエル肉は食感が豚バラ肉に似ているから、薄切りにしてしゃぶしゃぶにするとイイ感じになるんだよね。

 最初は肉厚の塩茹で肉だったんだけど、薄切りにする方が良いよってアドバイスをしてみたところ。茹で時間も短縮できるし、盛り付けると量が多く見えるので、俺の提案であるしゃぶしゃぶ方式が採用されたのである。(俺は角煮にしたい)

 そしてタレは他にも種類があって、爽やかな洋風トマトタレの他に、すりおろし玉ねぎ醤油タレと、濃厚ゴマダレも作ったよ。


「このタレには、ショウガと……ネギを漬け込んでいるのかしら? お肉との相性も良くて、風味がいいわ。これは、勉強になるわねぇ~」

「鶏肉のようにあっさりとしているリザード肉ですが、濃厚なタレと一緒に焼くことで香ばしくなり、一口サイズに切り分けていることで、いくつでも食べられそうな感じです!」


 焼き鳥―――じゃなかった、トカゲ肉の屋台のおじさんが、物凄くいい笑顔でお肉を焼いている。自慢のタレを褒められて、とても嬉しそうだ。

 焼き鳥みたいに串焼きにすると、もっと食べやすくなりそうなんだけどね。でも串を木で作るとしたらコストがかかるし、肉を挿す手間もかかるから、一口サイズに切り分けることにした。

 最初は肉のサイズも大きかったんだけど、女性には一口サイズの方が食べやすいだろうということで、ちょっと小さくしてもらったのだ。

 そうしたら女性客が現れたって訳だけど、やっぱ一口サイズの方が食べやすいみたいで良かった。

 ロベルタさんはお肉を器用に纏めて一気に口に放り込んでいるが、そこは気にしてはいけない。彼女は特別枠なので。


 箸やフォークがなくても爪楊枝があれば良いんだけどねぇ。トゥースピックっていう爪楊枝みたいなのはあるんだけど、アレはここでは歯磨き用に使われている。

 形状は三角形なので日本の爪楊枝とは違うのだが、食事を終えた冒険者があちこちでシーハーしているのもビジュアル的に宜しくないので、楊枝を採用するには抵抗があった。(マウスウォッシュとしてミントを噛んだりしてる冒険者もいる)

 安価で食べやすくするにはどうするべきか……。それが問題である。


「ん!? このセルペンテヘビのから揚げ、すっごくジューシーね! しかもとっても爽やかな風味で、上品に仕上がってるわ~」

「肉にバジルを巻いて、衣をつけて揚げていますね。それが爽やかな風味を添えているのでしょう。しかもサクッとした軽い食感なのに、中身はとてもジューシーで、揚げ方にコツでもあるのでしょうか?」


 女性向けに爽やかさを演出した塩レモンバジルから揚げを食べてもらった。本当は大葉が良かったんだけど、なかったのでバジルにしてみたが概ね好評である。

 片栗粉のから揚げだから、サクッとした食感が楽しめると思うんだ。

 他にはニンニク醤油やショウガ醤油のから揚げもあるけど、そちらはGGGのみなさん向けだ。

 から揚げも味に種類があった方が選ぶ楽しさもあるだろうしね。

 そしてロベルタさんはニンニク醤油のから揚げと、ショウガ醤油のから揚げも気にせずパクパク食べている。オネーサンはバジル巻から揚げが気に入ったようだ。


「これが、リオン君一押しのコッコドリッロワニのお料理ね?」

「うん」

「バナーナの葉で巻いて、蒸し焼きにしたのね。確かにバナーナの葉は、火で焙っても燃えにくいから、蒸し焼きはとってもいいアイデアだわ~」

「包みを開けると、バターと香ばしいタレの香りがふわっと広がりますね。何て美味しそうなんでしょうっ!」

「んん~っ! 蒸し焼きにしたコッコドリッロの肉の柔らかさと、ふわっとした食感が、たまらないわね~。 まるで高級白身魚みたいで贅沢な味だわ~っ!」


 そしてこのワニ肉の蒸し焼きは、ちょっとお値段が上がる。バターを使うから仕方がないんだけれど、それでも他の獣肉のお値段に比べれば安価なのだ。


「素晴らしいアイデア料理ですね! ところで、先程から使われているこのタレですが、リオン君がよく使っている調味料に似ているような気がするのですが……?」

「そういえばそうね。この前頂いたお料理にも、隠し味で使ってたわよね?」


 やっぱり気付いちゃったか~。俺の隠しきれない隠し味に。

 まぁ、食通のロベルタさんと、凄腕料理人のオネーサンならバレても仕方がない。シャバーニさんたちも気付いてたしね。だからここの屋台で頻繁に買い食いしてたみたいだし。 

 ただ本物の醤油とはちょっとちがうけど。


「おなじものだよー」


 だから俺はネタバレをすることにした。


 そして既にタレの正体を知っていながら、何の違和感も嫌悪感も抱いていないGGGのみなさんは、爬虫類お肉エリアの新作屋台メニューをモリモリ食べていた。

 せっせとテーブル席に料理を運んでいるのは、何時の間にやらウエイターと化していたディエゴとシルバである。魔法で器用に料理を受け取り、テーブル席に届けてくれているようだ。

 なんかウエイターってより、オーケストラの指揮者みたいになってんだけど……。

 ところでノワルはどこに行ったんだろうと思って見渡せば、焼き鳥屋台の屋根に止まって、辺りを警戒している風だった。

 でも本当に警戒しているのかは怪しいけどね。(多分サボっていると思われ)

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