第61話 空き店舗宿泊サービス
「今日はたくさんお客さんが来てくれて、とっても嬉しいわぁ~!」
ヤダもぉ~忙しいわぁ~と言いながら、店主のオネーサンは、嬉しそうに料理を作っては運んでいる。やはり一人で切り盛りしているのか、忙しそうだけどその表情はとても明るかった。
「そちらも、今日の宿を探しているのか?」
「うむ。我々も一軒家を探しているのだが、案内を断られてしまったのでな。なので先に腹ごしらえをしようと思い、アマンダ嬢にご一緒させて頂いたのだ」
「あ、わ、わたしも、食事だけでもと、お、思いまして」
ノワルの連絡により、ギルドで手続きの終わったアマンダ姉さんたちがこの食事処にやってきた。その際、ロベルタさんや【GGG】のみなさんも一緒だったので、こうしてテーブルを囲むことになったのである。
オネーサンは大喜びで、本日のお勧めである
「我々は常に身体を鍛えているのでな。他の宿泊客に迷惑をかけてはと、なるべく広めの宿か、一軒家を借りることにしているのだ」
「ない場合は野宿だがな!」
「それも已む無しだ!」
爽やかに笑いながら野宿を覚悟している【GGG】のみなさん。それでいいの?
「あらあら~。もしかしてあなたたち、借家を探しているのかしら?」
そこへ追加の料理を運んできたオネーサンが、声をかけて来た。
「そういえば、話を聞きたいって、そちらのグッドルッキングガイも言ってたわね?」
「あ、ああ」
バチコーンと、ディエゴにウインクを投げるオネーサン。
怯むディエゴ。これはちょっと見てて面白い。
「受付からは、案内できる時間を越えていたので断られた。この辺りにあると言われたのだが……。貸店舗しか見当たらない。どういうことだろう?」
「ああ、そういうこと」
思い当たる節があるようで、オネーサンはポンと手を打った。
「だって、貸店舗が借家なんだもの」
「え?」
「は?」
どうやら俺の予想通りである。
おそらくディエゴも予想していたのだろう。俺の方を向いて、合点がいったとばかりに頷いた。
「やはりそうか」
「受付も説明不足で困った子ね~。当たり前すぎて忘れちゃったんでしょうけど」
「では、どうすればいいだろうか?」
「両隣の店舗のカギはアタシが預かってるし、今日は仮の宿として泊ればいいわよ」
「それはそれで有り難いが、いいのだろうか?」
「いいわよ~。どうせ誰も住んでないし、貴重なお客様に野宿させるわけにはいかないもの。明日観光案内所で正式に手続きをしたらいいわ」
気に入ればそのままでもいいし、変更しても構わないとオネーサンが宿泊場所の提案をしてくれた。
しかし中々にアバウトというか、ずさんな管理の仕方だよね。もしその貸店舗内で盗みを働いたらどうするのだろうか? なんていう、心配がなくもない。
だがそうでもしなければならない理由がありそうだ。
「ここって、見て判るように、お客さんが少ないでしょう? だから一日ぐらいなら無料で、宿泊体験みたいなサービスをしているの」
「なるほど」
「そういうことなのね」
「一日無料なんすか?」
「そうよ~。サービスだから、安心してね~」
空き店舗を利用した宿泊サービスで、気に入ったらそのまま住んでくれてもいいよという意味もあるそうだ。
過疎化した街に住民を増やしたい領地にとっての苦肉の策らしい。
日本でも最近は民泊サービスをしているので、そんな感じかと思ったけど、割と深刻な状況のようである。
「それじゃぁ、今日はそうしましょうか。ロベルタさんはどうする? 良かったら、今日は一緒に泊まらない?」
「え、で、でも、い、いいん、ですか?」
「リオンも良いかしら?」
「いいよー」
女性は女性同士、仲良くしてくれると嬉しいので、俺にも否はない。
ロベルタさんには少しでも、元パーティメンバーを忘れて欲しいからね。
気にしていない風を装っているけれど、彼女の吃音症は、多分それらに関係しているのではないかと俺は睨んでいた。
吃音症と一言で言っても、様々な要因が上げられる。
でもロベルタさんは、料理を食べている時にはその症状が見られず、寧ろ流暢で饒舌だ。なので症状の主な原因が「環境要因」ではないかと推測される。
とはいってもあくまでもこれは俺の私見であり、専門的な知識があるわけじゃないからね。ただ環境を良くしてあげれば治るかもしれないのならば、協力するのもやぶさかではない。
それにアマンダ姉さんもチェリッシュも、人の悪口を吹き込んだりするような性格じゃないし。言いたいことがあれば、面と向かって相手に伝えるし、陰で愚痴ったりするような根暗でもないしね。
性格がさっぱりし過ぎて、逆に男受けが悪いんだろうけど。
二人とも見た目は良い方なんだけど、なんていうか、女性独特のあざとい媚がないんだよな。
チェリッシュはきゃぴってるけど、ひたすら自分の好きなことを追及しているだけで、周りがどう見ているとか全く考えてない。考える気すらない。良くも悪くも。
アマンダ姉さんは可愛いモノが好きだけど、自分には似合わないから、チェリッシュや俺にそういうのを求めちゃうところがある。とはいえ、ただ可愛いからというだけではなく、それを武器にしろとさり気なく教えてくれるのだ。
お陰様で俺は見た目は幼いけれど、身に着けている装備がかなり高価で高性能なので、見くびられることがない。
これだけ大事にされているのだと、周りに知らしめることになっていた。
最初はよく判らなかったけど、この子供服っぽいオーバーオールも、俺の普段着から考えて機能性抜群な物を選んでくれているし。ウサミミ帽子も、見た目の可愛さに誤魔化されているけれど、飾りに見せかけて集音魔法が付いている。
さり気なく可愛いモノで揃えました的になっているので、一見するとその心情は判りにくいから、アマンダ姉さんってちょっと不器用だよね。
でもそういうの、嫌いじゃないよ。
あなたのためにと言いながら、実は自分の都合を押し付けてくる相手より、最初から「可愛いモノが好きだから」と言って、自分の都合であると宣言してくれた方が受け入れやすいものだ。
「可愛くした方があなたのためなのよ」と言われるより「私が可愛いモノが好きだから」と言われる方が、受ける印象が違うといえば判るかな?
本当に嫌なら拒否すればいいし、それをちゃんと理解しているので、お互いの妥協点を探りやすい。
だからアマンダ姉さんは、実際はそこまで踏み込んでこないんだよね。
これも一種のツンデレなのかなぁ?
でもツンデレって、好きな相手にはデレて、それ以外にはツンだってのが本来の正しいツンデレなんだけど、昨今はよく判らないツンデレに進化しているよね。
「さぁさぁ、心配事はもうなくなったわよね?」
俺がぼーっとしている間に、オネーサンがテーブルに注文された料理をすべて運び終えていた。
これだけの量を、たった一人で作って運んでくるだけでも大変なのではと心配したけれど、オネーサンの表情は疲れも見せずに寧ろ輝いていた。
「今夜は存分に、アタシの自慢料理を堪能して頂戴な!」
おかわりもあるわよと言えば、大食漢であるロベルタさんやシャバーニさんの目がギラリと輝いた。
「ところでこのメニュー表にある、コレは、どういったものか聞いてもいいだろうか?」
「ん? あ、チャレンジメニューね!」
「そ、その、チャレンジ、め、メニュー、わた、わたしも、気に、なってて」
チャレンジメニュー? それを聞いて、俺は改めてメニュー表を見た。
そこには俺にとってお馴染みというか、見るだけで挑戦する気すら失せる『メガ盛りチャレンジメニュー』なるものが表記されていた。
「挑戦してみる?」
「ぜ、ぜひ!」
「頼みたい!」
「あらあら~自信満々ねぇ~」
覚悟しなさいなとばかりに、オネーサンの目もギラリと光る。
結果はもう判っているので、俺たちは目の前にある料理を食べることにした。
「あ、おいしー!」
「ほんとっすね。カエルの肉って、思っていたより美味いっすね」
「お肉があっさりしている分、味付けは濃厚だけど、ちゃんと肉の美味しさを引き立ててあるわ。それに見た目も華やかで、素敵ねぇ」
「おいしーねー」
「こりゃ、ワインが合うなぁ」
「白だな……」
美味しそうな匂いに偽りはなく、予想通り、いやそれ以上にホロホロラーナ料理はとても美味しかった。
これなら行きつけのお店にしてもいいかな? と思ってしまうぐらいには、このお店の料理は美味しかったのである。
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